トップIDマガジンバックナンバー > 第12号

idマガジンロゴ

IDマガジン第12号 (2005/6/22発行)


[012-04]しゃべらないインストラクタ

質問者:Aさん 最近 しゃべらないインストラクタを実現したとお伺いしました。一体何をなさったのですか?
Aさん: 「Javaプログラミングの教育にアクティブラーニングを使いました。 講師がどさっと知識をダンプするんじゃなくて、生徒側にしゃべらせるんです。」

質問者:生徒さんはどなたですか。
Aさん:私は企業におりますので、教室の学習者は成人です。」

質問者:担当したコースは何ですか。
Aさん:「プログラミングのことを知っている人、したことのある 新入社員を対象にしたコースで、自分で簡単なJavaコードを書くことが できるようになることが目標です。」

質問者:結果はいかがでしたか?
Aさん:「驚きでした。学習者からの反響の大きさに驚き、ああ、よかったと思うとともに来年に向けて課題も見えきたので気合が入ってます。」

質問者:どんな反応がありましたか、すこし具体的にお願いします。
Aさん:「『自分たちで疑問点を解決するスタイルだったため、深く理解した』
     『要点をまとめた発表、 演習を行う自発的な活動で、頭に残り身になった。』
     といった受け止め方です。 実に初めての体験です。」

質問者:何がきっかけですか。
Aさん: 「実は もう3年ほど前のことです。鈴木先生からのお勧めで。 時代が変化しているのにいつまでもおんなじような方略でいてどうするんだい、という刺激的コメントに、いつか、やってみようと思っていて、ついにチャンスがめぐってきました。」

質問者:具体的に授業はどんなやり方なんですか。
Aさん:「演習問題を配って、グループで、教科書やマニュアル、ウエブ上の資料、メンバからの情報など総動員して演習問題を解き、結果をクラスで発表します」

質問者:どのような授業の単位で運営しますか、レッスンやユニットなどすこし詳しく教えてください。

Aさん: 「約12時間程度のおおきなセクション、具体的にはプログラミングの実習課題10問から20問からなる演習科目があります。 それをいくつか段階を 追って学習して修了するんです。 演習Ⅰ→Ⅱ→Ⅲといった具合です。
ⅠならⅠの授業を3つのセッションに分けます。 第一のセッションはリサーチプロジェクトです。 演習Ⅰの実習課題を解くために必要な前提知識を調べ学習で獲得します。ただ調べろといっても何を調べてよいかわかりませんから、教科書の中身を区切って、塊ごとに、どんな問いへの答えになっているか質問を書け、とやるんですよ。 先ず、最初のセッションの冒頭では、特に指示しなくても、自然に独立で一人一人、個々の学習者が教科書を読む作業をします。

第二番目が問題練習とそのまとめです。 これはふつうに練習問題を解くことです、しかし三番面に控えているクラス内発表を視野に、自身で解いたことが一体何なのかってことを考えて、アウトプットにしないといけないのです。」
「最初は、リサーチといっても一斉授業に親しんできた学習者集団にはぴんとこないので、期待するアウトプットと称して問いを箇条書きにしたスライドを見せて、ごく簡単にどのような質問種類があるのかを説明します。」

質問者:受講者の方は受講前に、どんな知識、スキル、経験をお持ちの方ですか。
Aさん: 「個人情報保護が行き届いていることもあり、私自身学習者の属性についてそれほど詳しいことは知りません。しかし、大学院および学部においてプログラミングの科目を履修したり、コンピュータの構成要素に中央処理装置や記憶装置があるといった ことを述べることのできる程度、素養がある人であるといえます」
◆反響と課題

質問者:授業の評価方法は何ですか。
Aさん:「修了試験、評価アンケート受講直後、および受講数ヶ月後の3つです。」

質問者:では評価の結果をお聞かせください。
Aさん:  「はい、学習者から寄せられた感想にいろいろな意見があり、私自身大変驚いています。 これほど学習者を刺激するとは予想していませんでした。」

質問者:どんな反響がありましたか。
Aさん:「だいたいつぎの意見が代表的なところです。
・知識詰め込みではなく、グループによる各学習単位毎に要点をまとめた発表、演習を行う自発的な活動で、頭に残り身になった。
・自分たちで疑問点を解決するスタイルだったため、深く理解した。
・ クラスが良い雰囲気で楽しく効果的に学習できた。
・自主的に学べ眠くならなかった。またメンバーと話しあうことにより理解を深められてよかった。
・自らその問題点を解決するというスタイルが自分にとっては新しく理解が深まっ た。
・ 率先して授業に取り組めたと思う。」

「また、今後の課題を示唆するものとしては、
・正解が複数あるように思えたとき講師からコメントがほしい
・まったく初めてなので授業形式の説明もほしい」

質問者:教育設計上の工夫点は何ですか。
Aさん:「特に変わったことはしてはいません。 教育学の原則にあることとしてはごく少数のことです。 課業明瞭・明解(Lesson clarity) の原則に従ったこと、問いを発し問いに答えさせるの方式を採用したことです。また、ちょいとした工夫として、試験問題を教材に変換して学習のターゲットとする方式を採用しました。 また事例研究の設計道具を変形しました。
講師自身にも挑戦課題が豊富に見つかりエキサイティングです。一見かんたんそうな問いで実は答えるのに何十分も話をしないといけないような問いが挙がってくるようになりました。

質問者:いまお話にあった課業明瞭・明解とは具体的に言うと何ですか。
Aさん: 「あっ、それはですね、いまからこれをやるぞーーと知らせてわからせる。目標はこれだ、とはっきりさせる、といったことです。テキストはぺらぺらの薄い指示書、演習問題書です。 学習者にとって、『わたくしはこの教室で今から何をするんですか』への答えだけ書いてある。」

質問者:「問いを発し問いに答えさせるの方式を採用した」とは誰が何をすることをおっしゃっていますか?
Aさん:「生徒側です。」

質問者:自問自答ですか?
Aさん: 「というかですね、読みの技法につぎのような話があります。積極的読みということです、どうも、学習技法の領域になっちゃうのかもしれませんけど。
いかなる問いにこたえてくれている論文か、といった姿勢で問いを発しながら読むというやつです。これを使えば、受身で講義を聴かされるような退屈さからも開放されんじゃないか。 着想はそこです。読みの目的を定めた読み(リーディング)を訓練するというはなしの応用です。」

質問者:どういうことをなさるんですか、すこし具体的にお願いします。
Aさん:「特定の章が、どんな質問への答えを提示しているか、質問を読者側で作れ、書け、導けと求めます。これをグループのメンバ5人から6人で共同作業します。リサーチプロジェクトと呼んでいます。 質問を挙げたら交換して答えを出し合いなんらかの基準で10個選択させ、グループ内とクラス全員に対して発表してもらいます。進めるうちに、回を追って教室にやる気のオーラが漂ってきて、すこししびれるようなうれしさを感じました。実際、質問もじょうずになってきて、。。。の意味でわからないよ、といった会話が聞こえてきて、それに対して、説明する人(受講者)が、 説明の方略をパッと切り替える場面なんかあって、アメリカのインストラクタがやるような方略の選択などに感動しました。」

◆気になる成績

質問者: ところで、成績のほうはどうなんですか。
Aさん: 「ああ 良い質問です!」(笑)
     「全員が修了試験の合格基準点をクリアしています。特に、驚いたことは ケラー Fred S.のほうのケラーが文献に示している成績分布に似た傾向を示します。特に、学習段階の初期における基礎部分については達成度の高い人ほど相対度数の大きな増大型の三角分布を示します。 ここでは平均点やそこからどれだけ隔たりあり なんてことはまったく問題外です。 ほとんどの人が合格基準を越えるがんばりと結果を呈しているんですからね。しかも、その結果は、点数だけでなく、。。。できた、よかったという彼・彼女らの反応が直に伝わってくる、これはインストラクタ稼業をしていてこれ以上の喜びはありません。

◆事例研究の設計道具を変形して利用した?

質問者:「事例研究の設計道具」とは また妙な表現ですね。具体的にどのような内容ですか。
Aさん: まあチェックリストのようなものです。 ジョブ・エイドです。インストラクタは、教室にいて学習者の活動を観察します、そして、このジョブエイドに記述しているフレームに沿った動きになっているかときどき判断します。 セッションの到達目標がチームで共有できているかどうか、リーダ役の学習者から出て来る質問内容からある程度わかるんです。

私は教育運営をデザインする道具である、として使えそうな定石を、雑多なもんですがあつめては保存しておいて、必要なとき取り出して使います。 それで、物忘れも
するから、番号と名前をつけて道具箱と呼んでパソコンのフォルダに入れておくんですよ。」と言うとAさんは、資料束の中からつぎの内容が書かれている紙バージョンを「能書きなし」といって取り出した。

=================================================
4005実施道具: 事例研究会参画の手引き
=================================================
  演習のチームを自分たちで組織する
  ゴールを確認する
  課題は何であるか、理解を共有する
  最初に質問について独立で答えを考える
  解決への道筋を自分たちで考え、可視とする
  演習活動にもマイルストーンリストを作る
  期待するアウトプットの形と量に理解を共有する
  チームリーダはファシリテータとして進行をリードする
———————————————–

質問者: あれ、ここに講師とか先生ということばがありませんが?
Aさん: 「はい、参加者、生徒が主人公なんです」

質問者: このような手引きの出所は何ですか?ご自身で作ったものですか。
Aさん:  「いいえ、この手引きは ASTDハンドブックや緑本のネルソンから内容を頂戴しています。流行語でいうとパクリというやつですね」

◆試験問題を教材に変換して学習の標的とする方式を採用した

質問者: 教材の演習問題について、詳しくお聞かせください。
Aさん: 「練習問題の作り方に特徴があります。目標の知識、スキルが身につくよう目標重視でいきます。」
     「熟達したインストラクタの作成した総括的評価試験問題をもらいます。それをつかって、学習の標的となる練習問題に変換していきます。 学習径路に沿って配置します。」

質問者: 径路に沿ってとは何ですか?
Aさん: 「学習の順序にしたがってです。リサーチプロジェクトから演習Ⅱ、演習Ⅱから演習Ⅲの順に、使います。」

質問者: 変換するというと、出て来るもの結果はどうなるのですか。
Aさん: 「作る練習問題について意図的に、質問技法を応用します。」

質問者: というと何ですか?
Aさん:「ええと、質問種類を使い分けます。 ちょうどコンピュータシステムの仕事で アナリストがお客様から 要求を聴き取るときに、質問を使い分けるということの応用のようなものです。」

質問者: のようなもの? もう少し詳しくお願いします。
Aさん: 「入門段階から応用段階の順でお話します。  *入門段階の演習書に入れる質問の特徴です。
換結果の練習問題が限定質問になるよう、 たとえば、~は、。。。に必須ですか、といった形に書き換えます。
例)練習
(1) if文の括弧内の条件式の型は何でなければならないですか。
(2) メソッドの戻り値の型定義は必須ですか。」

質問者: 一見、シンプルでものすごく簡単そうに見えますね。こんなのでいいんですか?
Aさん:「大変よい質問です!」 (苦笑)
「これが 発表となると 単に答えは。。。ですでは済まないんですよ。なぜ、その答えが 解であるかのわけ、 何にもとづいてそう主張するか問われます、いや、人からとわれなくても自ら問うわけですね。 このあたりが、言われてみるとあたりまえなんですが、 いいことなんです」

(ここで少し話しが脱線)
「単に、『列挙してください』と故意に単純な質問を入れると、結果、列挙したことがらの定義や意味、使い方、関係などを指示せずとも彼女・彼らは質問しあい、質問の答えは何であるかテキストの記述から獲得しようと対象に集中していきます、この行動過程で知的好奇心を刺激します。 尋ねられたことに答えようとして実験を始める
グループ、メンバも現れて、気合の入り方といい、のめりこんでいく姿勢をかたわらでみていると、つくづく人間、ひとつのことに熱中するすがたってすごいなあと、非言語コミュニケーションっていうか、なんだかことばでないものが伝わってきておそろしいくらいでした。 」

(話しをもとに戻します。)
「*中間から課程終盤の演習書に入れる質問の特徴です。学習段階が進むにつれて、練習質問を包括的理解を要する質問に変換します。 要素間の関係について十分にわかっていないとプレゼンテーションできません、難しくなります。
例)問題 javaプログラミングⅢ演習のプログラミング課題 問題番号15の解(所在は http://www.java.。。。。/。。。。)についてUMLシーケンス図を作成して、コードと併せ説明してください。」

◆講師自身も挑戦課題が見つかり研究面に活性化
オブジェクト指向設計、開発の実践演習へと人間の社会活動に関連したトピックスが増えるにつれ、問いを挙げさせることの奨励により手ごたえのある質問が矢のように飛んできます、とのことです。たとえば、
 (1)開発計画の流れをおしえてください
 (2)要求定義はどの程度の詳しさで記述しますか
情報系企業教育部門勤務 豊永正人


IDマガジン購読

現在 677 名の方がIDマガジンを購読中です。 定期購読ご希望の方はメールアドレスを登録してください。


登録後、確認メールが届かない場合「迷惑メール」となっている可能性があります。「id_magazineあっとml.gsis.kumamoto-u.ac.jp」と「idportalあっとml.gsis.kumamoto-u.ac.jp」を迷惑メールから除外して再度登録ください。←「あっと」は「@」に置換え。

おすすめ情報

教授システム学専攻の公開科目でIDの基礎を学習できます。おすすめ科目は以下です。
・基盤的教育論
・eラーニング概論