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IDマガジン第17号 (2008/6/28発行)


[017-05] 【報告】 アメリカ取材@PSU(ペンシルベニア州立大学訪問記)その1

■Educational Technology誌2004年の特集号:IDと学習科学の対話
ET誌特集号に刺激を受けて、いつかペンシルベニア州立大学を訪ねたいと思っていた。その想いが2008年1月に実現した。同校大学院教授システム学専攻博士課程に在籍する藤本徹氏の世話になった。PSU訪問記第一弾は、アリ・カー=シェルマン(Ali Carr-Chellman)教授とのインタビューから。アリは、ET誌特集号(2004)の編集者の一人として、当時の教授システム学と学習科学の対話を企画した(もう一人の特集号編集者はこの時期にPSUに採用されたクリス:インタビューは次号以降に掲載予定)。アリは当時のPSUの教授システム学専攻の責任者で、自身は質的研究法の背景を持ち、科目も担当している。インディアナ出身でライゲルースの弟子の一人で、GreenBook第3巻の編集者(2007年2月に出荷予定であるがまだ完成していないのよ、と嘆いていた・・・)。

■PSUが学習科学者2名を2002年に雇用した背景
デイビッド・ジョナサン教授がペンシルベニア州立大学(PSU)から去る1999年頃に次の雇用を模索していた。当時、学習科学領域が教授システム学と情報科学をつなぐ領域として注目を集めていた。学部長との交渉で、若手教員を2名、情報科学専攻とのジョイント雇用(半人分ずつの複数機関所属)することを合意、学習科学が外部資金獲得実績があることも注目されていた。採用面談のときに、候補者が教授システム学領域の学会(AECTやISPI)に行ったり学会誌(ETR&D)に投稿する意思があることを確認し、両領域をつなぐ役割を果たすように要請した。

続いて本専攻所属の教授が管理職(副学部長)として教授システム学専攻所属を離れたときに、両領域をつなぐ中核的人材としてもう1名雇用した。採用の際には、両領域での活動実績があることを評価した。両領域は、やっていることにはほとんど差はないが、やっている人間同士の交流がほとんどない(ET誌特集号(2004)に書いたように)。両者をつなぐキーワードは「デザイン」。彼は我々にとって両方ともが分かる希少価値を持つ存在となった。

当時、専攻主任教授として掲げた目標は、面白い専攻(interesting program)。フロリダ州立大学やインディアナ大学のプログラムが深さを追求した一方で、PSUでは教員集団がカバーする領域の広さを追求した。それが十分に達成できていると自負している。見解の違いが存在することを認めながらも、互いに関心を持ち、社交的な場を持ちながら、良い雰囲気で専攻を運営している。著名であるが協力的でないような研究者は採用していない。これが鍵を握ってきたと思う。伝統的な教授システム学の専門家に自分の居場所がなくなってしまうのではないかという危惧を抱かせることなく、何とか学習科学の要素を入れたいと思っていた。

■その後のカリキュラムの統合は?
20 -30年後には、両領域に明るい卒業生が輩出され、活躍しているだろう。採用人事に比べてカリキュラム変更はより難しいし時間を要する。現時点では、両領域の統合は(両領域の教員が受け持つ科目を受けた)学生の手に委ねられていると言わざるを得ない状況であるが、一方で両者にそれほど違いがあるとは捉えていない。基礎カリキュラムの4科目は依然として教授システム学の伝統的なもの。教授システム学の基礎科目間の重複を整理して、学習科学的な要素をもう少し入れる方向での改革が進むだろう。

2002年当時に採用した学習科学者は若手であったので、自分自身の終身雇用(テニュア)を獲得することに忙しかった。それが終わったので、今後は学習科学のカリキュラム充実に貢献してくれると期待している。

研究方法関連の科目には、量的と質的の科目群がある。質的は解釈学派(interpretivisim)、3単位科目が3つ用意されている。哲学的側面を教える導入科目(AdultEd専攻が担当)に続き、2番目の科目ではインタビューや観察をして最低1時間分のデータ起こしをやる(自分が担当)。3番目の科目ではソフトを用いてデータ解釈をする(博士論文で質的研究法を採用する場合などに履修する科目)。

実証主義(positivism)に基づく量的研究法の科目群では、まず最初の科目で実証主義の哲学的側面を強調するのではなく実験計画に基づき研究計画を立てる。2番目の科目は200程度の被験者を集めて実際にデータを集める(Barbaraが長年担当していた)。統計科目を複数とり、それに関連させるので3科目ではなく2科目で構成している。

量的科目がデザイン研究(Design-based Research)を教える科目に変貌していくことが予想される。両者は解釈学派ではなく実証主義だという共通点があるので自然の流れだと思う。統制群を伴う厳密な実験計画を離れてデザイン研究に移行するかもしれない。この変化を興味深く見ている。

「デザインスタジオ」という科目を今年度に新設したが、これが学習科学を教える第一歩になる。何かを創作する科目であり、Art StudioやArchitect Studioと同様に何かをデザインする。Research Apprenticeship(これも新設科目)が研究志向であるのに対してDesign Studioは実践志向の科目。今後に期待している。

(このインタビュー結果のまとめはヒゲ講師が担当した)


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