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IDマガジン第18号 (2008/8/14発行)


[018-03] 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(17) ~教育工学研究の固有性:AECTの定義2008~

8月9-10日ヒゲ講師はこの夏2度目の秋田大学にいた。前晩の旧来の友人宅での美酒の残り香を少し頭の片隅に感じながら、日本教育工学会の夏の合宿に参加した。テーマは「教育における“技術”を考える」。ヒゲ講師は担当理事ということもあり、最終日の小講演「教育工学研究の固有性とは何か?」を担当した。

「相変わらず鈴木さんの着眼点はおもしろいね」と、巨匠西之園晴夫先生のほめ言葉にテレながら、返す言葉での質問「それで教育工学の成果として大学の授業料がタダになったという事例はあるの?」「教育工学がなくなって学校現場の先生方が困るの?誰も困らんでしょう、そこが問題だよね」という鋭い刀を浴びて、照れている場合ではないと覚悟した自分がいた。まぁいつものことながら、質疑応答時間の時間切れに救われることになるのだが。

依頼されたテーマ「教育工学研究の固有性とは何か?」にまともに体当たりしたヒゲ講師の答えは、最初のスライドに小さく書いた次の結論:それは
・研究方法がばらばらなこと
・実践に役立つ知恵を集積すること
・楽観主義と折衷主義
・ < 自分探し>を続けていること
・研究テーマが変わり続けること
・固有性が< とくにない>こと

教育工学研究者が全員備えている「常識」が存在しないことや、必読書がないこと。誰でも知っている基礎研究・理論がないこと(研究方法がばらばらなこと)からはじめて、5年前の全国大会でヒゲ講師が発言した「教育工学研究はタコツボだ!」を振り返り、人を育てるためには必須の研究態度としての決して諦めない姿勢(楽観主義)と何でも使って問題を解決するのが工学でありえり好みしない姿勢(折衷主義)を併せ持つことこそが教育工学の固有性であるとの持論を展開。さらに教育工学と学習科学の統合が進んでいる米国の事情に触れ、デザイン実験アプローチを持ち出してやっていること・目指していることは似ているがやってる人が違うだけだと解説。< 自分探し>を続けていることをAECTの定義の変遷を紹介して語り、最新情報としてAECT定義2008年版に言及。研究テーマが変わり続けることが教育工学研究の固有性だということを、赤堀会長の2007年念頭挨拶「教育工学研究の特性」と2006年に理事会が決めた日本教育工学会が取り組むべき重点研究内容(いわゆる中期目標)を例に説明。最後に、固有性が< とくにない>ことが教育工学研究の固有性なんだから、入りたくなる仲間、役に立つ道具、影響力のある実践を目指して、やりたい研究をどんどんやりましょう! と結んだ。

ちなみに、AECT定義2008年版は下記のとおり。前回の1994年定義と微妙に違っていて、近年の状況変化を反映しているのが興味深いです。

Educational technology is the study and ethical practice of facilitating learning and improving performance by creating, using, and managing appropriate technological processes and resources. (p.1)
[教育工学とは、適切な工学的プロセスと資源を創造し、利用し、管理していくことによって、学習を促進しパフォーマンスを向上させるための研究と倫理的実践である。]
出典:Januszewski, A., & Molenda, M. (Eds.)(2008). Educational Technology: A definition with commentary. Lawrence Erlbaum Associates.

主な変更点(AECT定義1994年版→2008年版)
(1)theory and practice→research and ethical practice
   ・理論だけでなく反省的実践を含む多様な形式を含むことを示唆
   ・AECT専門家倫理規定の制定が背景:Critical Theoryの立場
(2)for learning→facilitating learning and improving performance
   ・直接的な制御から間接的な関与を強調:間接的支援の増加
   ・専門職の仕事としてパフォーマンス向上は効果・効率の証
(3)appropriate technological processes and resources
   ・適切=両立可能性、地域性、適正技術、持続可能性、倫理性
   ・辞書学的には不適当だが「科学的・組織的知識を実践的な課題に
    システム的に適用すること」を一語で表現

(ヒゲ講師記す)


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