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IDマガジン第19号 (2009/5/29発行)


[019-05] 【報告】アメリカ取材@PSU(ペンシルベニア州立大学訪問記)その3

■スーザン・ランド教授(Susan Land)
スーザン・ランド(Susan Land)は現在、PSUの教授システム学専攻代表教授(Professor in charge)を務める。フロリダ州立大学大学院教授システム学専攻で1990年代初頭に博士号を取得後、ジョージア大学でハナフィン教授のもとで研究を進め、そののちPSUに赴任。ハナフィンと共著でReigeluthのグリーンブック第二巻に構成主義のIDモデルの章がある。

■現在ペンステートで何が起こっているか、そしてそれはなぜか
INSISに学習科学を取り入れようとしたのは、2002年。当時に認知科学から二人の教員を採用した。それまでは伝統的なID主体の教育と研究をうまく実践していたと思うが、同じような内容を違う学問(学習科学)で行っているのに気づき、それがINSISに所属する数名の研究者のテーマと重なる部分が多くあった。それは特に技術的な部分であった。また、当時はIDの中でもトレンドが構成主義にシフトし、より学生主体のアプロ
ーチが求められていた。技術はデータコレクションや実験に使われていて、今までのチュートリアル型CAI教材の中に活用されていたものとは全く異なるものであった。学習科学の分野は、研究費にも恵まれ研究(Research lab)により力が注がれていた。このような背景から新しい人材を採り入れて分野を広げようとした。

■新プログラムの運営について
現在のところ徐々に二つの領域を積み重ねながら実施している。今まであったETの強みに新しいものを加え、力を増す方向にある。新しいものをゼロから作るのではなく、今まである強力なINSISのプログラムをつぶして転換するというよりは、その強みを生かして、学習科学領域を強化することで、二つの領域を組み合わせて発展させてきた。この考え方は正しかったと思う。受講者側から見れば、学習科学者二人を迎えてからの改革は、いわばPiecemeal的なアプローチでカリキュラムを実施しながら考えてきたと言えるが、現在ではかなりカリキュラムの幅も広がり、かなり方向性が見えてきたと思う。

■リサーチアッパレンタシップ(RA)の位置づけについて
現在のところ既存の研究基礎科目の前後どちらにでもRAを受講できる体制をとっている。ただし、その我々の決断が本当によいのかはまだわからない。今のところ、博士課程1年1学期目の学生と4年目の学生が一緒にRAに参加することが可能である。後者の学生は研究について理解しているが、前者のような学生は何をしてよいかわからない状態になる。哲学としてそれぞれの学生ができることをし、貢献することが重要であるということが根底にある。1年目の学生が全体を把握仕切れなくても4年目になればリーダーシップを発揮できるようになるだろうし、1年目の学生はデータのコーディングや分析の一部を担当すればよい。といっても理論的に考えるのは簡単でも、実践は難しい。他の教員がどのようにRAをやっているのか、みんな興味があるところだろう。どの学生がどのRAグループに所属するかによる。たとえば、あるグループで、学会のプロポーザルを書くのが主な活動になった場合、もしその期がはじめてのRA参加だった学生は何もすることができなくなってしまう。そういった意味でまだチャレンジングであるが、これは正しいやり方であると信じているし、必要な知識をすべて教えてから実践をやらせるよりは良い。構成主義の考え方に沿ったやり方だと思っている。それがこの実践の背景にある。

■学習科学の要素を取り入れるための全体設計は?
IDの定義が広いように、学習科学の分野も幅広い。その内容は、研究者によって変わるが、学習科学に関する基礎科目がより多く必要となっている。デザインの考え方とコンピュータ(computation)そして認知学(Cognition)が必要である。また、認知とコンピュータまたは認知とインストラクションを中心にした教育心理学の授業が必要である。IDの基礎は充実しているが、ID以外の基礎も必要だ。願わくば、新しく採用される教員が担当してくれるとうれしい。

今のカリキュラムは3つの柱から成り立っており、それは、研究法の基礎科目、RAそしてデザインスタジオの3つである。どれが欠けても成功しないので、どうしても現在の科目は見直す必要がある。RAを導入したからには基礎科目を減らす必要がある。基礎科目の単位を(たとえば18単位)揃えてからRAにシフトするという考え方を捨てて、最初からRAに取り組ませているわけだから、基礎科目に割ける割合が減ることは避けられない。隔年開講という可能性は残っており、今でも一部そうしている科目もあるが、新しい人事が済めばこれも解消できると願っている。いずれにせよ、人事はすぐにできるが、カリキュラムの改革には時間がかかる。ゼロからカリキュラムを開発している熊本の例と異なり、長年の歴史をもつPSUの場合、変革を受け入れる者もいる一方で、固執する者もいる。

私がもしゼロからカリキュラムをデザインできるのであれば、研究法(RA)とデザイン(Design Apprenticeship)の二つのApprenticeshipを主軸にしていきたいと思う。長期間にわたってRAとDAを並行して展開し、すべての基礎科目をこの2軸の周りに配置するようなグランドデザインを考えたいところだが、まだそこまで我々のカリキュラムは至っていない。ようやく、科目を設置するレベルで見えてきたところだ(DAはデザインスタジオとして)。

(このインタビュー結果のまとめは根本淳子が担当した)


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