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IDマガジン第20号 (2009/7/23発行)
- [020-07] 編集後記
- [020-01] ID マガジン第20号
- [020-02] 【ご案内】eラーニングワールド&カンファレンスが開催されます
- [020-03] 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(19) ~夏間近、準備に追われる日々~
- [020-04] 【報告】日本教育メディア学会研究会@長崎大学
- [020-05]【報告】e学習理論研究会@北九州に参加して
- [020-06] 【イベント】近々行われるイベントは?
[020-04] 【報告】日本教育メディア学会研究会@長崎大学
5月30日に、平成21年度・第1回日本教育メディア学会研究会@長崎大学に参加しました。「教育メディア研究の方法論」という研究テーマで、6組の自由研究発表と久保田先生(関西大学)と鈴木先生(熊本大学)によるミニシンポジウムが開かれました。
■自由研究発表
●岡部先生(金沢星稜大学)「教育メディアの記号次元に焦点を当てた実践的な研究 映像リテラシーを育成する思考授業と成果の報告」
小学校高学年児を対象とした映像リテラシー育成の実践についての発表でした。メディアリテラシー育成の授業では、メディアの特性を扱うのみで終わってしまいがちですが、岡部先生は、手段・目的を問わず記号次元に着目したメディア・リテラシーを育成するためのワークブックを開発し、交流学習で使用する実践を行いました。実践では、当初の意図である「相手を意識し表現を工夫することは、相手の反応に応じた情報発信ができることを意味する」という仮説は検証できませんでしたが、メッセージの変容が読み取ることができました。
岡部先生はさらに実践を積み重ね、教師にも学習者にも使いやすい教材パッケージの作成を考えておられるそうで、その公開日が今から楽しみです.
●稲垣先生(東北学院大)「思考力の育成を意図した番組市長シートの開発」
学校放送番組「見える歴史」の視聴を通して思考力を育成すること、そして番組視聴用のワークシートの開発に関する研究でした。
番組を単にみて終わるだけでなく、ワークシートを併せて使う事によって、情報の比較や整理、また振り返りに役立ようという取り組みです。実践の結果、ワークシートでの尋ね方の特徴、学習者の思考のパターン、設問構成類型などが明らかになり、ワークシートのデザイン上の留意点が明らかになりました。ワークシートによって教師の授業設計を支援できたか、児童の思考力が
育成されたか、それらの結果が待ちどおしいです。
●小笠原先生(日本大学)「メディアのコトとモノの3次元」
メディア従来の記号・装置・システムの「モノ3次元」を踏まえ、メディアの働きを考慮に入れた印象・同定・構成の「モノ3次元」を提唱し、教育メディア研究のとらえなおしの必要性を指摘されました。さらに、博物館や動物園の展示を例に、興味を引くだけの安易なメディアの見せ方、ICTの使用ではなく、「学び」を起こすデザインの重要性を指摘されました。
●中橋先生(武蔵大学)「電子黒板を導入した教室での相互作用に関する質的研
究」
電子黒板の活用と指導方略に関する発表でした。電子黒板は教師が説明に利用するだけでなく、学習者が発表場面で活用することによって思考力・判断力・表現力を高めると考えられています。実践から発表者・聴衆・教師の3者の相互作用が明らかになり、さらに思考を促す問いかけをする教師の働きが大きな意味を持つことが明らかになりました。
●本多先生(長崎県教育センター)「ICT活用の普及を目指した現地講座と構内研
修の外部支援に関する検討」
ICT活用が進まない学校に、外部人材の力を活用して、校内のリーダーやメンターを育てるための校内研修を実施し、その支援の有効性についての調査報告でした。調査の結果、校内の機器や設備の充実よりも校内研修の実施と充実、特に学校内部のリーダーやメンターを育成することによって、ICT活用に関する認識が肯定的になることが分かりました。
●中川先生(放送大学)「小学校国語科低学年における「見る」「見せる・つくる」領域の検討」
国語教育とメディア教育の接点に関する発表でした。2人の経験20年以上のベテラン教師の指導案および実践から、国語学習の入門期において「見る」「見せる・つくる」領域の関連性・系統性を明らかになりましたが、さらに上学年やメディアリテラシーの他領域においれも同様の研究をすることで、メディアリテラシー教育の系統性や評価基準が明らかになることが期待されます。
■ミニシンポジウム
鈴木先生(熊本大学)と久保田先生(関西大学)のお二人から、教育メディア研究の方法論についてお話いただきました。
まずお二人の理論的背景についてですが、鈴木先生は伝統的なID理論の立場であり、、かつ、ガニェから折衷主義を学び、問題解決の為には質的研究も構成主義も役立つものは使うという立場です。一方、久保田先生は構成主義の立場に立ち、メディアのみを研究対象にするのではなく、文化に埋め込まれたメディアと学習者をセットで考えたときに何が見えてくるかを重視すべきで、構成主義は、効果
効率を重視する伝統的なID理論とは基本前提が違うという立場です。
シンポジウムは、久保田先生の提案により、ボールを投げてみんなが拍手するなボウリング形式ではなく、パネリスト同士がテニスをするように、さらに聴衆とドッジボールをするようなシンポジウムにしたいというご提案があり、鈴木先生と久保田先生のやりとりだけでなく、参加者が積極的に質問し、意見交換をする、とても活気のあるシンポジウムとなりました。
鈴木先生の「新しいメディアが紙とどう違うのかきちんと押さえて欲しい。基本は紙教材をデザインできるかどうか」と、久保田先生の「メディアは人と人のつながりを作るという関係性の中から問題を解決する力をつけるようなことを、我々は考えていく必要がある」という言葉が非常に印象的でした。
(熊本大学大学院 特定事業研究員 今岡義明)