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IDマガジン第21号 (2009/8/18発行)


[021-04] 【報告】熊本大学大学院GP国際セミナー:リバプール大学のeラーニング戦略

「180か国から3,000人以上が学ぶオンライン大学院をいかに実現したか」。首都圏を地震や台風が襲った8月11日、東京・田町駅前にあるキャンパスイノベーションセンターにて行われた、このような非常に興味深いタイトルのご講演を、筆者は本マガジンの執筆を念頭に、つまり、ID的見知から考察することを意図して拝聴した。

講師のSir Drummond先生は、英国有数の研究大学であるリバプール大学の学長を2002年から2008年9月までお務めになり、その間、大学の国際化にリーダーシップを発揮された方である。ご講演の中では、100%オンラインの修士課程の設立や中国への大学の設立を代表事例としてご紹介下さった。特に、オンライン大学院については、修了者には修士号(MBAを含む)が授与される英国初のeラーニング学位課程(分野は、経営、IT、法律、公衆衛生等)を開始し、2003年に最初の修了者2名を出した後、急激に規模を拡大し、現在、約180か国から3,000人以が学んでいる。そして、このような国際化に関する取り組みを、米国の大手教育企業Laureate Educationとの包括的連携により実現させているという点が特徴的である。

主としてマネジメントの重要性を説くご講演ではあったものの、筆者の不安をよそに、意外にもID的に重要な要素が埋め込まれていたと感じることができ、原稿が書ける!という思いとともにIDの有用性を再認することができ、安堵を覚えた。

まず、先生は、「大学の国際化に取り組むならば、”なぜ”国際化をする必要があるのか、その目的を初めに問うべきである。」と述べられた。そして、これをご講演の最後にも再び強調された。至って普通のことではないか?と思われた方も多いと思う。しかし、これは、一見すると理性的判断の塊から構成されているような「大学」という組織においても、この「至って普通のこと」を出発点とせずに進められるプロジェクトが多いということを、一方では、やはり「目的」の考究こそが成功を導き出すための手段であることを物語っている。”なぜ”その教育が必要なのか?本マガジンの読者ならば、今一度胸に手を当て、皆様が目下取り
組んでいらっしゃるその教育の「目的設定」を考え直してみてはどうだろうか?話を国際化に戻すならば、リバプール大学の場合、その目的とは、「学生や教員のためのより良い環境作り」、「大学をより発展させるための増収」、「ブランド力の向上」の3つだという。

2つめは、「初期分析」の重要性である。マネジメントの視点では、大学側がアカデミックな教育の質に責任を持つ一方で、企業側がマーケティングに責任を持つという連携の枠組みに興味が向かうところではあるが、このマーケティングの部分では、コース設立の前にマーケティングリサーチを行い、それにもとづいたコース開発や運営を行ってきたという。その結果、教育のターゲットとして設定された中間キャリア層の人々は、コンテンツのリッチさよりも安定な動作を求めているといったことが分かり、これらを加味して、LMSとしてはBlackBoardを採用したり、24時間体制のチュータを配備したりしたとのことであった。

3つめは、「入口」と「出口」の問題である。学生の質の多様化が進む中で、一定の質の入学者を得るために、他大学との協力関係や独自ネットワークの構築に注力しているという「入口」に関するお話があったほか、社費等による留学の学生も多いため、出資者に対しては「出口」における学生の質保証も重要な課題であり、今後、その点についても更に努力を重ねていく必要がある旨を伺った。

ID(教授設計)、IT(情報通信技術)、IP(知財)、IM(マネジメント)の4領域を柱とする我らが教授システム学専攻なだけに、このように、IDとマネジメントのクロスオーバーが成功の秘訣といえるような事例に触れられたことは、一研究員として大変有意義であった。

(教授システム学専攻 特定事業研究員 小山田誠)


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