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IDマガジン第24号 (2009/11/21発行)


[024-04] 【報告】国際セミナー:「高等教育の世界的趨勢:グローバル化、競争、知識の視点から」

今回の国際セミナーは、オーストラリア・メルボルン大学高等教育研究センター教授のサイモン・マージンソン教授による講演で、「高等教育の世界的趨勢:グローバル化、競争、知識の視点から “Globalization, Knowledge and Competition in Higher Education”」という演題であった。冒頭に大森不二雄教授から「サイモン教授は、私が頷きながらお話をお聞きできる数少ない方です。」と紹介があった。

サイモン教授は、まず「グローバルとグローバル化」の定義と「高等教育において、グローバルなアクションとは何を意味するか?」について説明された。そして、大学世界ランキングの発表によって、国内での知名度が左右されることや、国レベルでの政策や条例が大学のグローバル化に影響を及ぼすといった例を挙げた上で、高等教育機関においては、今までの「National(国レベル)」「Local(地域レベル)」のミッションに加え、「Global(世界レベル)」な動向にも対応し、National, Local, Globalからなるトライアングルの関係、即ち三次元で同時にミッションを追求するバランスが必要であると述べられた。

次に、サイモン教授は、グローバルな視点で各国の高等教育機関を捉える際に重要なことは、「指標」であり、その指標とは、HiCi研究者(頻繁に他の論文で引用される研究者)の人数、国家の高等教育への投資額、研究論文の発表数のことであると説明され、各国の数値の中で日本の高等教育の動向について述べられた。そして、高等教育のグローバル化にとって、「知識と研究」の「協力と競争」が重要であると強調され、その具体例として、国境を越えた協同開発、著名な研究者や優秀な留学生の獲得を挙げられた。留学生の獲得率は、上位五カ国が米国・英国などの欧米で、6位中国(5%)・7位日本(4%)であった(UNESCO data for 2005)。また、研究開発費の平均成長率(1995-2005)は、1位中国(18.5%)・2位芬蘭(7.8%)・3位韓国(6.9%)・6位日本(2.9%)…というグラフが表示された(constant prices , OECD China data for 2000-2005 only)。その中で、中国における高等教育は、数年後世界トップレベルに躍り出る可能性があるとの話を聴き、中国の発展を想像すると共に、日本の国力衰退に不安を感じたのは私だけだろうか(ゆとり教育が始まった頃、政府に勤め海外を飛び回っていた中国の友人から「教育こそが国力の基盤なのに、日本は何を考えているのか。中国は、明治維新以降の日本の教育を研究し、良い部分を学んでいる。今の日本は衰退に向かうつもりなのか。」と言われたことを思い出した)。

講演後半部分で、グローバル化に対応した高等教育戦略について示唆された。その中で、現状は英語が唯一のグローバル言語となっているが、他のグローバル言語の出現の可能性について、世界の使用言語のグラフを用いて説明された。グラフ上は1位2位がほぼ同列で、英語と中国語(普通語)であった。資料の中には、英語圏以外の知識が無視される危険性についても記述がされていた。また、世界のeラーニングについては「失敗事例は、語学の配慮もなく英語のまま教材を輸出しただけで、大学のブランド力だけで売り込もうとしていた。語学に配慮した指導が必要。成功事例であるフェニックスは、コストを掛けていた」と説明を受け、eラーニングを開発する上で手間を惜しんではならず、やはりeラーニングは様々な面で協同作業が大事だと感じた。

最後に講演のまとめとして、再度「協力と競争」の重要性、グローバル化を目指すと共に、国・地域レベルの独自のミッションを追求していくことの重要性を強調された。講演後の質疑応答では、諸外国が行っている「教育ハブ構想」や「知識都市構想」といった高等教育戦略を日本でも成功させることは可能か、また講演資料の大学世界ランキングが英国ではなく、上海交通大学作成の物が利用されているのは何故かといった質問が参加者から出された。サイモン教授からの後者の質問に対する「上海交通大学の資料は、大学の意図でコントロールできない指標を使っており、英国の資料以上に真実性が高いからである」という説明を受け、学生獲得のためのイメージ戦略の裏側を知った。。

私は、今までに6年間中国に滞在(留学・学校勤務)する中で、各国の若者や中国人、訪中日本人研究者との関わりはあったが、英語圏の教授から中国に関する話を聴くのが今回初めてであった。日本で私が中国のデータを元に話をすると、周囲から「中国のデータは信用できない。」と一喝されることが多く、今回説明を聴く前は、サイモン教授が中国の資料を引用されていることに驚きがあった。中国のデータの裏付け方にも賛否両論あると思うが、サイモン教授の説明を受け、中国の信用度が上がってきていることを改めて感じた。また、私は「グローバル化に必要なものは英語」という意識を持っていたが、サイモン教授の語学への配慮についての話は「教材開発者が学習者の使用言語に配慮する時代が到来し、英語ができない研究者の誕生」を想像できる面白い内容であった。今回は「英語圏の教授から見たアジア」も垣間見ることができ、非常に興味深く拝聴させていただいた。

講演内容の詳細に関しては、下記大森教授の実施報告をご覧ください。
http://gp.gsis.kumamoto-u.ac.jp/i_collabo/houkoku_091013.html

(熊本大学大学院教授システム学専攻博士前期課程2年 吉田)


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