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IDマガジン第26号 (2010/2/4発行)


[026-04] 【ブックレビュー】「イノベーションの普及」 エベレット・ロジャース著 三藤利雄 訳

この本は、初版刊行時から40年を経て現在第5版、5,000以上の文献の分析を重ね、最新の研究やトピックを盛り込み、「イノベーションはどのように伝播していくのか?」という問いに理論的かつ経験的に解明しているものである。コミュニケーション、マーケティング、コンピュータ・ネットワークの社会的利用や新技術、新製品、新ライフスタイルなどのイノベーションは、社会に新たな選択肢や手段を提供することで、「不確定性」を増大させている。この本は、これらのような新たな不確定性をどのように?対処するのかという、情報伝播の仕組みを理解する上では、あらゆる研究に役立つものであるため紹介する。

イノベーションの普及理論の一般化・普遍化を目指した研究はこれからも進められるであろうが、一方でマーケティングや社会学、コミュニケーション学などに特化した研究が行われると予想できる。そのとき、研究者や実務家にとって羅針盤となるのがこの本である。

本書には普及研究の伝統に基づく知識の体系が蓄積されている。40年以上もの間、多く調査や理論的な展開とともにイノベーション普及過程に関する研究が拡張されてきている。しかし、基本的な枠組みは現在も踏襲されているようである。

イノベーションとは、本書では「新しい技術の発明だけではなく、新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革である。つまり、それまでのモノ、仕組みなどに対して、全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことを指す。」とある。

「普及」とは、本書では「イノベーションが、あるコミュニケーション・チャンネルを通じて、時間の経過の中で、社会システムの成員に間に伝達される過程である。メッセージが新しいアイデアに関わるものであるという点で、普及はコミュニケションの特殊な形式の一つである。コミュニケーションとは、それの参加者が相互理解に到達するために、互いに情報を創造し分かち合う過程である。」とある。

これまでイノベーションは、よく「技術革新」や「経営革新」、あるいは単に「革新」、「刷新」などと言い換えられてきた。しかしながら、ソフトウェアの側面での改革や新たな取組なども社会変化には、大きく影響を与えていると思われる。
私がこの本に興味を持った理由は、自身の研究内容をどのように実践の場で普及できているのか?自身の研究内容との関連において、大変興味深いテーマであったからである。私の研究は、「高等教育における全学的なeラーニング推進に関わる研究」である。そこで、全学的にeラーニングの効果的な活用方法等が伝わり、採用する教員が増えていく過程には、何らかの普及理論が介在していると考えられる。多くの研究は、何らかの役に立つものとして研究が進められるであろうが、良いものは自然に普及していくというものではない。この普及理論は、とても参考になる1冊である。

イノベーションはどのように伝わっていくのか?
イノベーションの普及に関わる主要な要素は、(1)イノベーション、(2)コミュニケーション・チャンネル、(3)時間の経過、(4)社会システム、と著者は定義している。この中でも社会システムとは、共通の目的を達成するために共同で課題の解決に従事する、相互に関連のある成員の集合のことである。

ロジャースの本書で有名なのは、イノベーションを採用するタイミングに合わせて、イノベーション採用者のタイプを5つに分類したことが有名である。①イノベータ、②初期採用者、③初期多数派、④後期多数派、⑤ラガード(採用の最も遅い人々)が採用者のカテゴリーである。こうした採用者をカテゴリーに分けることもとても重要であるが、私は、高等教育機関に従事し、eラーニングをどのように伝播していくのかという研究課題において、オピニオン・リーダーのリーダーシップがとても重要な役割を果たしていることが、とても参考になった。

また、本書では、「オピニオン・リーダーが、重要な役割を果たす」ことが記されている。基本的にオピニオンリーダーとは、ある製品のプロトタイプを使用し、その製品の魅力を他者に伝える役割を担う。プロトタイプを使用するオピニオン・リーダーに、その製品に関する知識を得ることも考えられるが、もともと詳しい情報を持っている人を選択することも戦略として考えることも必要である。オピニオン・リーダーは、頼りにされる人材であるため、その製品を詳しく説明できることだけでなく、製品に付随する情報にもついても説明できることで、よりイノベーションを普及させることにつながるということである。

相対的にみて他の人の態度や行動が望むべき方向に頻繁に向かうように、非公式に影響力を行使できる度合いがイノベーションの成功の確率と関係している。また、イノベーションの初期の採用者が、普及過程に大きく影響を及ぼすこともポイントである。

主要な普及研究の類型は8つあり、次のとおり著者は示している。
1) イノベーションを知る早さ
2) 社会システム内部での異なるイノベーションごとの普及速度
3) 革新性
4) オピニオン・リーダーシップ
5) 普及ネットワーク
6) 異なる社会システムごとの普及速度
7) コミュニケーション・チャンネルの活用
8) イノベーションの帰結

この本は、多くの研究者のイノベーションを普及させる過程で、大いに役立つものである。
私自身は、「4)のオピニオン・リーダーシップ」は、大変参考になった。高等教育機関において、教育改革に奮闘する方へは、2)社会システム内部での異なるイノベーションごとの普及速度、4)オピニオンリーダシップ、7)コミュニケーションチャンネルの活用、などは、誰に、何を、どのように提起し、進めていくのか。ヒントがこの本にはある。お勧めである。さらに熟読したい。
その上で、高等教育機関で、eラーニングを普及させるために何が必要であるのかを明らかにしていきたい。

以上

(熊本大学大学院 社会文化科学研究科 教授システム学専攻 博士後期課程
日本福祉大学 教育デザイン研究室 兼 教育開発室主幹 仲道雅輝)


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