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IDマガジン第29号 (2010/5/5発行)


[029-03] 【ブックレビュー】「考えることの科学―推論の認知心理学への招待」市川 伸一

先日、机と本棚の整理がてら、読んだ本と読んでいない本を仕分けした。表紙を数ページでもめくった記憶がある本は読んだとみなして、全くページをめくっていない本が10冊強。どうしたものでしょうね。GWの目標は、この買ったのに全く読んでいない本を減らすことと、教授システム学専攻の課題に決定した。まずは、スモールステップの原則にしたがって(?)一番薄い本を手に取る。表紙を見ても、いつ、何がきっかけで購入したのかは記憶にない。巻末を見る。著者は東京大学大学院教育学研究科の教授で、認知心理学や教育心理学の分野で多数の著作がある。私が手にしたのは2008年の第9版。1年以上寝かせたであろうことはさておき、9版もされていると期待が膨らむ。予想どおり、読み始めるとおもしろい。

本書は、人間の「推論」を認知心理学の研究成果を中心に解説した本である。私たちは、無意識で直観的に推論していることもあれば、熟考を重ねるときもある。また、考えた結果(あるいはたいして考えなかった結果)、予想が当たることもあれば、外れることもある。

  夕焼けを見て、「明日は晴れそうだ」と思う。(中略)
  クシャミがやたらに出るので、「カゼをひいたのかもしれない」と思う。
  前にやった問題と似ているので、「同じ解き方で解けるのではないか」と思う。・・・
  (本書の「はじめに」より)

本書は3部構成になっている。第1部は論理的推論、第2部は確率的推論、第3部は日常場面における推論である。第1部、第2部も興味深いものだったが、私が特におもしろかったのは第3部である。たとえば転移に関する話題を紹介しよう。

心理学では、ある問題を解いた経験が他の問題解決を促進することを「転移」と呼ぶ。本書によると、転移がうまく起こるのは結構難しいことが実験的に確かめられている。そしてうまく転移が生じるのは、あらかさまに「前の問題がヒントになっている」と提示するか、問題解決の後にどのような問題だったかを要約させて一般的な教訓(本書では「収束スキーマ」と呼ぶ)を引き出したときだとしている。ここで的外れな教訓では転移は起きないことに注意したい。「要するに努力すればいいんでしょ」のような教訓では転移は起きないのである。インストラクショナルデザインにおいて、ガニェの9教授事象の9番目は「保持と転移」である。転移の設計としては、応用問題の提示やリフレクションが重要だとされている。本書から、リフレクションの「質」が転移を促す重要な要因になることを再認した。

なお、この転移の話はたった数ページにまとめられている。本書はどのテーマ(理論)も事例を提示しながら短く解説されているので、非常に読みやすいことを申し添えておこう。

さて、読んでいない本が1冊減った。次に薄い本は・・・。

(高橋 暁子 熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程2年)


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