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IDマガジン第4号 (2004/8/14発行)


[004-03]ケラー先生を囲む会

7月27日東京駅付近にある中華料理店で、来日されたケラー先生を囲んで勉強会&懇親会が行われた。参加者には事前にARCSモデルの予習と、質問を用意して参加していただくようにした。今回のために質問登録用Webサイトを作成し、できるだけ皆さんに積極的に参加してもらえるようにしたかったからだ。Webには誰かが情報を登録すると確認メールがこちらに送信されるように設定してあったが、サイト構築時には便りは全くなかった。こんなものかな、なんて思っていた頃、少しずつ質問情報が登録され出した。どんな場でも言えることだが、効果を上げるには、充分な準備が必要。そして、考えを実行しなければ前には進むことはない。私にとって「学習の場」設計の学習となった。

私自身、この日がケラー先生とお会いするのが初めてだった。六本木で待ち合わせて、お昼をご一緒した。先生は、皆さんからどんな質問が出ているのかとても興味と関心を持っていた。ご本人が考えたARCSモデルに関心がある人達に、自信と責任を持って対応したいという気持ちが伝わってきた。この勉強会の後、8月8日までほとんどケラー氏の旅に同行させていただくことになるのだか、この時感じた「プロフェッショナル」はこの時以上にお別れした後の今の方が強く感じている。

質問をまとめた用紙を渡すと、表情が突然変わった。仕事人の顔だ。一問ずつ内容を確認し、各質問者はどんな人なのか順にたずねる。時には笑顔で、時には真剣な目で、自分が持っている情報を記憶から引き出し、相手が求めるものと近いものになるように結び付けていく。さらに勉強会直前には、もう一度最後に30分ほど時間がほしいと言われた。

勉強会は、勉強会らしくない雰囲気の中進んだ。中華料理店でカラオケマイクを使って説明され、皆が質問を聞く(笑)。不思議な感じ。約1時間の勉強会と2時間弱の懇親会。参加者から頂いた質問への回答には、現場で直面している悩みなど生の声がいくつも含まれている。それぞれが、それぞれの思いを抱きながら参加されていたことと思う。

ケラー先生の回答に対する個人的な印象は、一言で言えば「IDを中心としたとてもスタンダードな回答」だった。そのすっきりとした説明が、今まで聞いたことのある内容が必要なところだけ取り出し、不足していたところには情報が追加する。なるほどIDなのだと思った。

質問の内容を一部紹介する。

1.eラーニング市場について
メディアの発達により、今までやりたくてもできなかったことがどんどんできるようになってくる。それと同時に今まで考えなかったようなアイディアが生まれる。遠隔地を結んだ会議室なども設計されてきているが、今はその距離を感じないようなことも実現されてきた。今までは、自分達がe-learning で何を実現することができるかわからなかったものが、明確になり、実現したいことが理解されてきた。

2.実際にARCSを使ってアンケートを作成しているが、より精緻な評価をするための具体的なアンケート設問文章を教えてもらえないか?
ケラー氏が作成した質問紙がある。ひとつは教室における一斉学習を評価する評価シート、もうひとつはマルチメディアを評価する評価シートである。英語のみであるがよろしければ皆さんにも使用してほしい。日本語版としては、向後さんが開発したものがある。
(論文のURL:http://kogolab.jp/research/paper/1996/kyosys.html)
補足:eLFの追跡調査アンケートで最初に使った16項目です。

3.ケラー氏が書いた論文”Levels of evaluation: Beyond Kirkpatrick Human Resource Development Quarterly”(1994)を発見した。このbeyondとは何をbeyondしたのだろうか?
Kaufman&Keller(1994)が考えた評価法は、カークパトリックを二つの観点で超えている。ひとつは適応範囲がトレーニング以外の部分にも適応できるという点、もう一つはレベル4は組織に与えるインパクトを示しているが、その上のレベルとして社会に与えるインパクトを追加した点である。例:タバコ会社が儲かると社会には、マイナスの影響を与えることがある。だから、組織のレベルのみではなく、社会のレベル(企業倫理)でもインパクトを評価したほうがよいと提言した。ジャックフィリップのレベル5は有名だが、組織vs社会レベルという観点からみると、組織のレベルの話であり、社会レベルの話ではないため、レベル4bである。ROIというのは組織の評価を数量化したものであり、それはジャックフィリップスのオリジナルではなくHumblin(1984)によって20年も前に提案されたものである。

4.eラーニング教材にARCSモデルを適用しようとするときに、いつも3つの点で悩んでしまいます。
a.その教材で学ぶ多くの受講者が動機づけられるような方略を考えるのが難しい。 ← ケラー氏曰く、“Yes.”
b.多様な動機づけ方略を実現するにはお金と時間がかかる。 ← ケラー氏曰く、“Yes!”
c.学習初期においては、学習者が動機づけられるような方略でも、学習者の状況の変化によっては、途中でその学習者には合わなくなる可能性も考えられる。← ケラー氏曰く、“Yes!!”
しかし、eラーニングにおいては、一度、教材に組み込んでしまった方略は途中では変えられないことが多い。やはりeラーニング教材においては、教材自体はシンプルに作って、メンタリングやチュータリング、自己管理による学習、人事制度との連携などの外部環境においてARCSモデルを適用した方がよいのでしょうか?しかし実際の仕事では、学習の外部環境の設計までは力が及ばないのが実情です。そういった意味で、いつも大きなジレンマを感じています。なにかいいアドバイスがあればお願いします。
この個人差の対応がARCSモデルにおいて最も大事なところで、原則は意欲のある人間には動機づけさせようとしないこと。早く勉強したいと思う人間に学習開始時に動機づけで時間をかけて、早く学習内容に入ってくれと思わせるようなことがあってはいけない。そのためには、学習者にとって何が学習意欲を阻害させる要因になるか分析を行うことが必要で、これを学習者分析と呼ぶ。必要な動機づけ方略(作戦)だけを使うようにしましょう。(学習者分析ついての内容の説明)以前は動機づけ設計は注目されなかったが、徐々に注目されるようになってきた。まだまだ成長過程にある。今後ともみんなで関心を持って研究の成果を蓄積していきたい。

気をつけてほしいところは、ARCSを使うことが目的ではないこと。手段と目的を取り違えることが多い。目的はより魅力的なeラーニングを作ることである。動機づけ設計はまだこれからである。
(根本 淳子記) )


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