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IDマガジン第40号 (2011/10/31発行)


[040-04] 【ブックレビュー】おとなの学びを創る:Professional development as transformative learning: New perspectives for teachers of adults (Patricia Cranton著)

前回(IDマガジン36号)の「おとなの学びを拓く」が、成人の学習を推進している人(おとなの教育者)がどのように大人の学習を起こせばよいのかという視点で記載されているのに対して、本書は、おとなの教育者の能力開発という視点で記載されています。

例えば教授システム学専攻(以下gsis)の学生で「おとなの学習者」を教育する方やgsisの先生方は、おとなを教育しているので、「おとなの学びを拓く」を理
解して教育すべきであり、加えて、おとなの学習者を教育する人は、「(本書)大人の学びを創る」が示す能力開発を行うべきであるという論点です。また、お
となの学習者を教育している人(おとなの学習者を教育しているgsisの学生)の能力開発を行う人(gsisの先生方)は、「大人の学習を創る」が示す能力開発者
であるべきであるということを示しています。

IDを基に考えると、大人の学習者を対象に教育を施すのであれば、大人の学習を理解してそこに導く教育方法を考えるということであり、また、その教育者の能
力開発を担う人は、それらを踏まえて能力開発するとなるでしょうから、当たり前と言えばそうなのだとも言えます。
本書が示す、「おとなの学習を推進する人は、自身の能力開発においても自己決定的に能力開発すべき」という論点は、「自身の能力開発は、実際にそうなっているか?」という問いに、「勿論です」と果たして回答できるのであろうかという省察を与えてくれることだと思います。簡単に言うと、「gsisの学生で成人を教育している人であるなら、gsisのプログラムにいちゃもんつけていないで、自己決定的な能力開発を行いなさい」と指摘されているということです。また、gsisの先生には、gsisの学生が自己決定的に能力開発できるようにサポートしなさいと指摘しています。小職の前期課程から後期課程での自己の学習の在り方に対して、グサグサと刺される本であります(読みたくないでしょうが、一読の価値ありです)。少なくとも、gsisが目指しているプログラムは、これらを目指したプログラムであると言えるのではないかと感じました。

【「おとなの学びを創る」の概要】
本書は、成人教育者が成人教育者として能力開発を行うにはどうすればよいのかという視点で記述されている。成人教育者は成人教育を行っていく上での教育訓練を受けていないこと、成人教育者はどのように自己の能力を高めていくべきなのかについて言及されている。

第1章:成人教育者の養成と能力開発
成人教育者は、教えることについて学び、自分の実践について学ぶという意味で学習者である。成人教育者が教えることについて学ぶのは、経験について語り、自分の持っている前提や期待に気づくようになり、その前提を問いなおし、パースペクティブを修正することを通してである。このプロセスこそが、本書の成人教育者の能力開発についての基礎概念となっている。

第2章:従来の能力開発の方策
これまでの教育者の能力開発について批判的に検討している。これまでの教育者の能力開発手法を、①マニュアル・ガイド・ハウツー本、②ワークショップ、③研修、④訓練プログラム、⑤評価・遂行能力査定の5つに分類し実践とどの程度位置しているのかを分析している。

第3章:自己決定的な能力開発のための方策
振り返り(省察)を、自己決定型学習の観点でまとめている。また、成人教育者に自己決定型学習が求められる理由を、成人教育者は、自分の実践についての前提を明らかにし、問い直し、修正することと、学習者に自己決定学習を求めるならば、自らが自己決定学習を身につけておかなければならないことの2つであるとしている。

第4章:批判的な振り返りここまでの章で述べられる批判的な振り返りについて、より詳細に分析し述べられている。デューイやショーンの考え方を参照にして、批判的な振り返りについて整理されている。また、成人教育者の能力開発における批判的振り返りの方策として、前提を明確にする、前提の源を明らかにする、批判的に問い直す、代わりとなるものを想像するという具体的な手法が述べられている。

第5章:意識変容的な学習者になる
メジローの意識変容の概念を、成人教育者の能力開発に関連して述べられている。

第6章:教育者の能力開発に見る一人ひとりの違い
ユングの心理タイプ(8タイプ)論を基に、意識変容を伴う能力開発における成人教育者の特性の違いを論じている。
先に紹介した、第1冊目(おとなの学びを拓く)では、おとなの学習者の自己決定型学習や意識変容学習を進める際に、学習者の心理タイプを考慮すべきと論じられているが、本書では、成人教育者自身の能力開発についても同様な視点で論じられている。

第7章:仕事や社会的背景の中での意識変容的な能力開発
教育者は、変化の媒介者として社会に関わることができると主張している。教育的なプロセスを通じての社会変化は可能であるとしている。制度や社会変革(トップダウン型の社会変革;小職の理解)ありきではなく、教育での変革(ボトムアップ型変革;小職の理解)が可能であるということである。

第8章:専門職の能力開発のための新しい展望成人教育者を取り巻く環境要因が能力開発に及ぼす影響について、また、成人教育者自身が周囲の環境に及ぼす影響について述べられている。

第9章:能力開発担当者のための方策
成人教育者の能力開発を担当する人(能力開発担当者という言葉を使用している)について、能力開発担当者が成人教育者の能力開発に取り組む際に用いる方策を示している。その方策を、個別相談、アクションリサーチ、グループでの取り組みの3つに分けて述べられている。

【本書のお勧め度】
前作同様、成人学習に関するまとまった翻訳本は少ないので、本書はお役にたつと感じました。また、成人教育全体を俯瞰するには良い本であると思います。リ
ファレンスも非常に豊富で、その点でも大変参考になります。
加えて、自身の能力開発の省察にもお薦めかもしれません(読み方によると思いますが)。

(熊本大学大学院 教授システム学専攻 博士課程 早川勝夫)


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