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IDマガジン第45号 (2013/2/22発行)


[045-02] 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(41) ~話す準備で気づくこと~

ヒゲ講師は2013年2月20日、入試についての重要な会議を朝早く終えた熊本を後にして、火事騒ぎが報道されたばかりの神田の老舗そば屋にほど近い明治大学の会場に向かった。eラーニングカンファレンスWinter2013での登壇を依頼されたためであった。演題は「eラーニングのプロとして研究成果に裏打ちされた提案力を持とう」で、与えられた時間は75分間。満員御礼が出て100名定員の会場がeラーニング関係者で埋め尽くされていた。

依頼を受けてからあれこれ隙間時間に考えていたが、結局、配布資料の提出〆切までに全体像が見えず。ヒゲ講師としては異例の、発表用スライドをそのまま配布するという事態に追い込まれた。準備が完成していなかったので、もちろん発表用スライド全部を配布することはできず、厳選8枚を2ページに収めた構成。発表用スライドそのものの完成は、発表直前まで及んだ(つまり前の登壇者の発表を聞きながらの完成・・・)。

さて何を話そうか。
「同じスライドは見飽きた」という声を想像しながら、時事ネタをいろいろ考え、二つの「面白そうな」ものを候補としてあたためていたが、結局二つともやめた。ネタの本筋への位置づけがどうもしっくりこなかったのがその理由である。

その没ネタって何だったか気になりますか?

一つは『世界の経営学者はいま何を考えているのか』というアメリカ在住の新進気鋭の経営学者が研究の最先端を紹介した本。「ドラッカーは誰も読まない。ポーターは古い」という帯の文字が刺激的で、実践と研究の対比に使えるかな、と思ったもの。もう一つは『教育の職業的意義』(ちくま新書817)で、日本の大学が職業人的準備ゼロで新卒者を輩出してきたメカニズムが明快に示されていた。結局は両方とも没ネタになりましたが、なかなか面白い本たちですよ。

他方で、講演の準備をしている時に、話の骨格が突然見えた瞬間があった。何が言いたかったのか、自分で気づいた。なぁんだ、言いたいことは全部同じじゃん。これが骨格だと分かってすっきりした。その後の準備は迷いなく進んだ。

その骨格って何だったか気になりますか?

ARCSモデルにVが拡張された背景にある自己調整学習への関心。ガニェの9教授事象よりメリルの第一原理が企業研修の設計にはお勧めだと思うこと。ibstpiが新しく「オンライン学習者コンピテンシー」の策定と公表に踏み切った理由。ローゼンバーグが「eラーニングはeトレーニングではない」と主張し、フォーマルな研修と職場でのインフォーマルな学習をブレンドするモデルを提案したこと。ムーアが遠隔教育を物理的距離でなく心理的距離を使って概念化し、学習者の自律性に応じて対話と構造の二軸を調整する必要を図示したこと。そして、トビンが『All Learning is Self-Directed(すべての学習は自己主導である)』という題名の本で、「教室で集合研修を受けているときでも、本を読んでいるときでも、あるいはコンピュータ支援の学習においても、いかなるときにも学習者として、私にとって何が重要かを見極め、学習すべき事柄を選択している。受講者としては、何が教えられるかについては管理できないが、何を学ぶかについては常に自己管理している」と指摘したこと。これらのすべてが、学習者の自律性を高める工夫を入れることで、研修を徐々に「不要」にしていく覚悟を持つ、という配布資料8枚目の最終メッセージにつながっているではないか。
そう気づいたわけです。

自分の実践がなぜ効果的で魅力的なのかを説明できること、自分だけでなく業界全体の発展に貢献していること、そして自らを常に磨き続けていることが単なるベテランと異なるプロフェッショナルの証。研修オタクにならずに学習者の自律性を高める工夫を盛り込むように互いに精進しましょう、と質問時間を5分だけ残してヒゲ講師の話は終わったのでした。

どんなメッセージを伝える話にしようかと考えていると、突然、光明が差しこみ、「そうだったのね」と思うことがある。翻って、eラーニングのコンテンツは一度作ってしまうと、毎年同じものを使う省力化に傾き、そうなると省察する機会が持てない。進歩しない。この限界を乗り越えるために何ができるか、真剣に考えなければという思いを新たにした。

冒頭の大切な会議で合格した18+3名の新しい仲間を心から歓迎します。
業務連絡:研究生・科目等履修生への出願期間は2月26~28日です。

(2013.02.20 ヒゲ講師記す)


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