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IDマガジン第46号 (2013/4/3発行)


[046-03] 【ブックレビュー】小川賀代・小村道昭編著(2012)『大学力を高めるeポートフォリオ-エビデンスに基づく教育の質保証をめざして-』東京電機大学出版局

今回ご紹介するのは、大学教育の質保証のためのツールとして注目を集めている「eポートフォリオ」に関する書籍です。ポートフォリオ及びeポートフォリオの概念整理から始まって、熊大GSISなど国内の高等教育機関におけるeポートフォリオの開発・活用事例と代表的なOpen Sourse Potfolioのシステムの紹介と進み、eポートフォリオの今後の展開で締めくくられています。本書を読み進めるにつれて、eポートフォリオは単なるツールにはとどまらず、eポートフォリオの導入により学習と評価が一変することを実感・再確認できます。
国内の代表的なeポートフォリオ研究者に加えて、熊本大学eポートフォリオ国際セミナー(http://www.ield.kumamoto-u.ac.jp/08_seminar/)で講演をされたJanice A. Smith氏も寄稿されている本書は、1冊丸ごとeポートフォリオ、特に高等教育におけるeポートフォリオの活用について扱っている(現在のところは)唯一の和書とも言えるでしょう。本書の巻頭にある「刊行によせて」で、信州大学の東原義訓氏は、「本書を手にされた方は、本当にラッキーだと思う」とまで絶賛していますが、決して過言ではないでしょう。

本書は、Ⅳ部全14章構成です。目次は、東京電機大学出版局の出版物案内のサイトを参照してください(http://www.tdupress.jp/books/isbn978-4-501-62740-9.html)。
第Ⅰ部は、eポートフォリオの全体像を把握するためには必読です。Smith氏が執筆された第1章「ポートフォリオ総論-海外の活用から」に続く第2章「eポートフォリオの普及」で森本康彦氏は、eポートフォリオの役割として「学習や成長の“エビデンス”」と「学習を促進するためのツール」という2点を示しています(p.33)。eポートフォリオを導入・研究する際には、自分が構想しているものがeポートフォリオと呼びうるのか、システム開発研究や教育実践研究のためではなく学習者の成長のためのeポートフォリオになっているのか、この第2章に照らして検討することが必要でしょう。
第Ⅱ部の国内の実践例の紹介は、章を通して統一的な節構成になっていて、とても読みやすくなっています。各節の「はじめに」でeポートフォリオ導入に至る問題の所在を明確にした上で、開発・運用しているシステムの概要を述べ、eポートフォリオ活用の教育効果を考察しています。学部レベルでの活用、専門職大学院(教職大学院)での活用、そして我らが教授システム学専攻での活用実践も紹介されています。
第Ⅲ部では、Open Sourse Potfolioのシステムとして、Sakai、Mahara、KEEP Toolkitを取りあげて、各システムの概要が解説され、画面のキャプチャを提示しながら特徴的な機能が紹介されています。eポートフォリオ・システムを独自開発しようとするとかなりの金額の投資が必要ですが、Open Sourse Potfolioにより比較的安価で手軽にeポートフォリオを導入できることがわかります。
そして、第Ⅳ部は、eポートフォリオを大学教育で活用されている関西国際大学の岩井洋氏と京都大学(前・名古屋大学)の梶田将司氏が執筆されています。第Ⅱ部の開発・活用事例とは異なり、eポートフォリオ導入の意義や生涯ポートフォリオへの発展の可能性などeポートフォリオの本質に迫りつつ、eポートフォリオの今後への期待も述べられています。

本書が出版されるまで、ポートフォリオに関する和書と言えば、日本教育工学会(JSET)監修の教育工学選書第8巻『教育工学における学習評価』や日本行動計量学会編集のシリーズ〈行動計量の科学〉第4巻『学習評価の新潮流』などの1つの章として「eポートフォリオ」が取りあげられているか、あるいは、初等・中等教育の「総合的な学習の時間」のポートフォリオ評価のことがほとんどでした。
本書は、高等教育でeポートフォリオを導入・活用してきた人にとっても、またはこれまでeポートフォリオは使ったことはなかった人にとっても、理論から実践、そして今後の展望までを網羅していて、導入のきっかけにもなりつつ、これまでの実践を見直す契機にもなる1冊になるでしょう。そして、ポートフォリオ学習の基本的な考え方は、初等・中等教育での活用にも大きな示唆を与えてくれます。
JSET全国大会では、eポートフォリオに関する課題研究がここ4年間続けて設定されています。さらに、2012年12月のJSET研究会では、「eポートフォリオの活用と普及」がテーマになっています。JSET全国大会の課題研究での議論から本書が生まれ、そして本書に基づいてeポートフォリオを活用することによってさらなる研究発表がなされていく。そのようなサイクルを一層加速する本書のインパクトは計り知れないところです。eポートフォリオの研究者・実践者が増えれば、第14章で梶田氏が提案している「ライフロングなeポートフォリオ」の裾野も広がって行くに違いありません。

いずれにしましても、本書は、eポートフォリオ研究のバイブルとも言えるオススメの1冊です。森本氏のFacebookによれば、重版が決定したとのことです。CiNii Articlesで個々の論文を収集してもいいですが、コンパクトにまとまったこの1冊を手元に置いておきたいものです。(ちなみに、私は3冊買って、自宅、別宅、大学と置いています。)

[熊本大学大学院 教授システム学専攻 博士後期課程 谷塚光典]


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