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IDマガジン第46号 (2013/4/3発行)


[046-04] 【報告】熊本大学eラーニング連続セミナー参加報告(2013年3月11日)

『教育開革!』(←誤字ではないですよ!)。一言で言うならば、その大きな可能性を感じた2時間でした。

本稿では、2013年3月11日(月)に飯吉透先生(京都大学高等教育研究開発推進センター教授)をお迎えして行われた、「熊本大学eラーニング連続セミナー 来るべき高等教育の世界:オープンエデュケーションを越えて」の報告をします。

飯吉先生は国際基督教大学からフロリダ州立大学で博士号取得という、某ひげ講師と同じ道を経て、そのまま米国に残り、MIT教育イノベーション・テクノロジー局やカーネギー財団知識メディア研究所にて、長年オープンエデュケーションの実践や研究に携わっておられます。日本に戻るきっかけになったのが、東日本大震災。大震災で浮かび上がる日本の諸問題に対して、「やはり日本で人育てをしたい」と強く思ったそうです。折しも、セミナーの日は3.11からちょうど2年目の節目の日でした。

オープンエデュケーションとは、直訳すれば「教育の公開」です。それでは教育の何を公開するのか。セミナー前半で、飯吉先生は3つの要素を挙げられました。1つ目は、「オープンテクノロジー」で、教育に利用できる技術的なシステムを公開することです。たとえばMoodleなどのオープンソースLMSが該当します。2つ目は「オープンコンテンツ」です。これまで一人の教員が、あるいは一大学が所有していた講義教材や授業ビデオなどを公開することです。たとえば、MITから始まった、高等教育機関の「オープンコースウェア(OCW)」が該当します。組織的に行われなくとも、個人の情熱と狂気(と、飯吉先生が表現されておりました)があれば、教材はどんどん公開されていきます。セミナーでは様々なオープンコースウェアの事例の紹介があったのですが、中でも一個人が始めたカーンアカデミー(http://www.khanacademy.org/)のインパクトは大きなもので、オープンエデュケーションを加速させたように思いました。3つ目は「オープンナレッジ」で、より深く、より効率的に、より確実に学ばせる工夫を公開することです。端的に言えば「教え方」「学び方」のノウハウの共有でしょう。事例として、AI(人工知能)を組み込んだ自学教材や、授業実践のエビデンスを蓄積・共有し、改善につなげる、カーネギー財団のKEEP Toolkitおよび京都大学のMOST(KEEP Toolkit の日本語版)などの紹介がありました。

個人的にもっとも興味深かったのがKEEP ToolkitとMOSTです。実践者がアップした教材や授業設計書の中に込められた、優れた教え方・学び方の暗黙知をどう切り出し、改善につなげているのか。さらに得られた知見をどう加工して、他者でも再利用できるようになっているのか。きっと、インストラクショナル・デザイン(ID)の視点が必須で、インストラクショナル・デザイナー(ID者)が活躍しないといけないですよね。たとえば、出口・入口・方法のフォームが用意されているとか、すでにID的なフレームワークが組み込まれていると思うのですが、いまだ拝見できず。MOSTは招待制なんですよねぇ。どなたか私を招待してください!

セミナー後半では、MOOCs(Massive Open Online Courses)などの、最近のオーブンエデュケーションの動向をご紹介いただきました。MOOCsとは、簡単に言えば修了認定がもらえるオンラインコースです。前述のOCWは授業が丸っと公開されているものですが、MOOCsはそれに加えて単位などの何かしらの修了認定がついてきます。MOOCsが始まった背景には、前述のカーンアカデミーの爆発的な普及を目にした既存の教育機関の焦り(?)や、そもそも米国では学費や教科書が高額なことなどがあるようです。代表的なMOOCsの一つであるCourseraには、最近、東京大学も参加しましたね(http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_250222_j.html)。一流大学が授業を持ち寄り、世界中から学習者がアクセスし、修了認定されるということは、いろいろな側面で教育システムが大きく変わるきっかけになりそうです。たとえば、単位認定(互換)するならば世界共通のコンピテンシーのようなものが用意されるのかな?とか、「単位=学習時間」ではなくなるのかな?(まさか授業ビデオの垂れ流しをして視聴時間で単位認定しないですよね。オンライン上に蓄積された学習成果物で評価しますよね)など、いろいろ想像してしまいます。ビジネスモデルなどの課題もあるようですが、今後のMOOCsの動向に注目です。

冒頭の『教育開革!』という言葉は、飯吉先生の著書「ウェブで学ぶ」にサインをお願いしたときに添えられた言葉です。「教育開革」=「オープンエデュケーションは、教育イノベーションである」という熱いメッセージだと解釈しました。今回のセミナーで、自分の目の前に、様々な格差を超えて、その気になれば一生学べる世界のイメージが広がりました。インターネットが電気やガスと同じようなライフラインになった現在、「一生学べる世界」は夢物語ではなく、実証段階に入ったんですね!こんなワクワクするオープンエデュケーションの世界に、ある時は学習者、ある時は教授者、ある時は学びの場を俯瞰的に見つめるID者の立場で参加したいと思いました。

[熊本大学大学院自然科学研究科付属減災型社会システム実践研究教育センター
特定事業研究員(熊本大学 教授システム学専攻 修士2期・博士2期修了生)高橋暁子]


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