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IDマガジン第49号 (2013/9/20発行)


[049-03]【ブックレビュー】バリー・J・ジマーマンほか(2008)「自己調整学習の指導 学習スキルと自己効力感を高める」北大路書房

「◯◯さんって、宿題はちゃんと出してるのに、なんで結果が出ないのかしらね(私の授業のせいじゃないわ)」
「△△くんはそもそも勉強の仕方から分かってないのよ(私の授業のせいじゃないわ)」
「同じ授業聞いてて、あの子はできてるのに、どうしてあの子はできないのかしら(私の授業のせいじゃないわ)」

教員の口からしばしば漏れるこのようなボヤキ。何かしてあげたい気持ちはあっても、学習の仕方を教える方法がわからずに放置してしまう教員も多そうです。
自己調整学習や自己効力感などといった言葉は学習スキルを指導する際によく聞かれるキーワードですが、実際に、どのようにしたら自己調整学習をする能力が身につけられるのでしょうか。

今回、ご紹介するのはバリー・J・ジマーマンほか著の『自己調整学習の指導 学習スキルと自己効力感を高める』です。

著者らは、教師として「できる生徒」の学び方を長年観察し、彼らの中に共通点を見出しました。それを理論化した集大成が以前このコーナーでも取り上げられた『自己調整学習の理論』であり、本書はその続編にあたります。
※「自己調整学習の理論」のレビューはこちらから読むことができます。
(http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/?page_id=55&cat=124&n=2547)

『自己調整学習の理論』とその続編である『自己調整学習の実践』は様々な事例や、多くの研究者らの知見を取り込んでおり、多くの気づきが得られ読み応えのある大作です。
しかし、実際に毎日教壇に立つ〈忙しい〉教員には、
「理論も大事だろうが、具体的には何をしたらいいんだ」「すぐに試せる指導方法が知りたい」
という要望も少なくないと思います。
そのような教員に向けて作られたのが本書であると思われます。

本書は教師のための自己調整学習指導の指導方法を示したものです。筆者らは通常の授業や宿題の中ででも自己調整学習能力を育てることは可能だとしており、小学生から高校生ぐらいの生徒を対象として、基本的な学習スキルを教えるための指導モデルを提案しています。
本中では「カルビン」と「マリア」という2タイプの学習者が登場し、彼らが抱える問題点、そして改善するための具体的な指導法を紹介していきます。学習者の描写が詳細なので、「あーいるいる、こういう子」「あー、これは私だ」と共感してしまいます。

少し例をご紹介しましょう。

「カルビンは、算数の宿題を夜遅くテレビを見ながら始める習慣になっている。いつものように彼は夜9時に宿題を始めた。そして30分のコメディー番組が終わったとき、課題を仕上げたかどうかにはおかまいなく宿題も止めた。授業が始まる直前に、彼は5分間で残っている問題のいくつかに”あてずっぽうな”答えを書いた。彼の宿題成績の平均点は10点満点のたった2点で、この課題の自己効力感はずっと低く3点であった。」(pp.30)

「マリアの場合、毎日数学の問題を友達とやる。そして(中略)彼女は毎日午後の45分間、親友と喫茶店で問題に“取り組んだ”。その時間のいくらかはボーイフレンドについてのおしゃべりだったが、2人はどうにかこうにか課題を終わらせた。協力してなんとか課題問題は解くことができた。その宿題の答えについては自信があったが、その課題のテストについてはそれほど自信がなかった。」(pp.30~31)

このような「ちょっと惜しい生徒」を「できる生徒」に導くにはどのような手段があるのか、興味が湧いてきませんか?

本書は、教師が生徒に「自己調整サイクルの実践を教える」という最終目標に向け、6つの小目標を示しています。

目標1では、最低限押さえるべき自己調整学習の原則を学びます。自己調整学習とは何のことでなぜ重要なのか、それはどのような過程を経て身につくのか、教師にできる役割は何かがまとまっています。『自己調整学習の理論』を読んだことがなくても、ここを読めば概要が把握できます。
ここでは学習の自己調整は「読む課題を分析し、試験を受ける準備をし、論文を書くことのような、一定の教育目標を達成するために自己調整する思考、感情、行為のこと」(pp.2)と定義されています。そして、自己調整学習は「自己評価とモニタリング」、「目標設定と方略計画」、「方略-実行モニタリング」、「方略-結果モニタリング」の4つの段階によって特徴づけられる学習だとしています。そして教師の役割は「生徒が学習の進歩は自分の責任だと考えるように支援すること」(P.17)、つまり自己調整サイクルを作り上げて、生徒が勉強活動とその結果の関係を認め評価するようになることを支援することだと述べています。

目標2では、基本となる時間管理スキルの身につけ方を扱います。その後、目標3、4、5、6では「文章理解と要約」「ノートテイキング」「テストの準備」「作文」という学習を続けるうえで不可欠な項目を扱います。それぞれの小目標について自己調整サイクルの各過程で指導する際のポイントが示されています。具体的な指導方法が示されている場合もあれば、カルビンやマリアの描写から読者に気づきを促す箇所もあります。随所に教師用のチェックリストが提示されており、自らの指導体制を振り返ることもできます。章末にある「自分への質問」では、本書の内容が理解できて、かつ自身の授業への応用可能性を検討することができるでしょう。

ジマーマンは本書の日本語版序文において「教師のためのマニュアルだ」と述べていますが、ファミレスチェーンでアルバイトに用意したようないわゆるマニュアル本とは異なります。
「難しい理論はいらん」、「すぐに使える具体的な方法が知りたいんだ」という現場教員からの要望に応えているように見せていますが、上述の通り本書では具体例を示す場合もあれば、ヒントのみに留める箇所もあり、何度も「自己調整サイクル」の指導法を読者自身に考えさせる機会を設けています。

マニュアル通りにやったところで、教師が真に自己調整学習について理解できていなければ効果が薄まるし、生徒の状況と必要な支援策は十把一絡げにはできない。だからどのような生徒にも対応できる本当の指導力をつけて欲しい。そんな筆者らの願いが込められているように感じるのは私だけでしょうか。

【関連文献】
「自己調整学習の理論」バリー・J・ジマーマン, ディル・H・シャンク編著/塚野州一編訳/伊藤崇達ほか 訳 北大路書房 2006/9
「自己調整学習の実践」ディル・H.シャンク, バリー・J.ジマーマン編著/塚野州一編訳 北大路書房 2007/9
「自己調整学習と動機づけ」ディル・H.シャンク, バリー・J.ジマーマン編著/塚野州一編訳/中谷素之ほか 訳 北大路書房 2009/11

(熊本大学 教授システム学専攻 博士後期課程 甲斐晶子)


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