トップIDマガジンバックナンバー > 第5号

idマガジンロゴ

IDマガジン第5号 (2004/9/21発行)


[005-03]企業教育の変化と私達に求められているもの

今回IT関連の研修に携わっている矢部さんにお話を伺った。
近年、研修受講者の受講者傾向が、個々の科目(講座)単位から(短期間に)複数の異なる分野の科目(講座)を、という傾向が見えるという。例えば以下の様に、である。
   [例: ネットワーク、PC、経営戦略、マーケティングなど ]
   [   ネットワーク、システム開発、プロジェクト管理、経営戦略など ]
   [ ビジネスモデル、プレゼンテーション、ロジカルシンキング、IT経営など]
これらの科目の対象者は、従来専門的なスキルの向上が期待されてきた人達である。加えて、「今まで複数の科目として提供してきたものを、相互の関連を含めて研修して欲しい」という要望もある。これは一体何を意味するのであろうか。
 
1989年、IT業界は「オープン化・ダウンサイジング」により大規模な構造改革を迫られた。この年、日本では同時に「バブルの崩壊」が発生する。1993年にはインターネットが商用利用に開放され(国内)、ネット市場が急激な勢いで進展したが、ベンチャーなどの新規参入などの影響で、IT業界全体の回復には至らなかった。

このような市場環境において、企業の人材の減少、原価低減のための教育コストの削減により人材育成に振り向ける費用も低迷が続いた。企業には、俗に3Kという言葉がある。勤労、経理、教育の3部署を指し、サポート部門として様々な原価削減策の先鋒にあげられる部署を言う。最初に削減されるコストの筆頭に「教育」が位置づいているのだ。

冒頭に述べたようなニーズの変化は、企業に残った少数精鋭のメンバによる企業活動の変化(技術が分かる営業へのニーズや、技術専門職が拡販営業活動を行うなど) に伴い、企業人個々に幅広いスキルが要求されるようになってきたことによるものと言える。

では、この変化に対応する教育には、何が障壁となっているのであろうか。矢部さんに二つの項目を挙げて頂いた。
第一に、教育者(インストラクタ)の教育。ビジネスの最前線で活動しているスタッフに対する教育の時間は、可能な限り効果的かつ短時間であることが望まれる。講師には幅広い技術知識を基に、企業が望む広範囲な内容の科目を相互に関連付けて一人で提供できるスキルが要求される。現状、それに対応できる講師はほとんどいないそうだ。確かに、インストラクションと幅広い専門分野の両技術を兼ね備えた人がそう簡単に見つかるだろうか。今後早期育成が急務であるが、現実には残念ながら進んでいない。

第2に、企画力不足。景気の低迷から脱却する気配が見えてくると、空洞化や人材の流出などの結果として、人材育成の必要性が急務として浮上し始める。「人財」の重要性に気づいたといえる。この「人財」の空洞化をすぐに埋めることは容易くない。従来型の人材育成方針では時間的にも、技術の幅という視点もカバーできない。

各企業は研修を提供する側やコンサルタントなどに問題を投げかけ、リクエストを出す。が、これらの障壁は直視されず、ただ「何とかして現状を打破したい」と切望する。

また、矢部さんは、各企業が持つ要求は、三つに大別できる問題からきていると考えているという。
ひとつは、どのステップでどの技術を身につけさせるべきかという、スキルマップの問題。二つ目は、結果をROIなどで評価するための客観的指標が必要という考えに基づく、スキルレベルの問題。そして三つ目が、育成コスト削減と即戦力化に寄与する仕組みづくりとしてのナレッジベースの問題である。 

スキルマップの問題は人事評価制度とも絡むし、企業人としての育成のプランに不可欠である。しかし、目標達成のために、どの研修を、どの順に、どのレベルで提供するのか具現化できている企業はどれぐらいあるだろう。そこで、経済産業省が高度IT人材の能力を体系化・策定した IT技術者のキャリアフレームワークであるITスキル標準(ITSS)を作成した。現時点では、これがスタンダードとなりつつあり、それに沿う形での人材育成マップを作る方向が中心となっている。

スキルレベルの問題は、従来独立行政法人情報処理推進機構が進めてきた「情報処理技術者試験」が客観的な評価指標として活用されてきた。しかし、(元々推進母体である、所轄官庁が異なるという大きな問題があり)後発であるITSSとの整合性が取れていない面もある。今後、両者がどう融合化していくかが重要なポイントとなろう。

ナレッジベースの問題は、現実的な解として、ナレッジデータベースを構築し、皆で共有化するものを提供すればよい。しかしながら、スキルの無い人にとって有用な情報は得てして経験者にとっては当然のことであり、それをことさらデータベース化する、という動きとしての仕組みを作るのが困難であるのが実情である。

技術の進展は待ってくれるわけもなく、教育の形は大きく揺れ動く。特に最近では、「技術立国の日本」を現実のものとするための、「ものづくり技術」の必要性が大きく叫ばれている。どの企業もその重要性を認識しているが、では、「誰が何をどのように」という部分では研修を計画・提供する側も対応できていないのが現状である。専門家不足を感じる。

最後に、彼はこう語った。現在の企業教育においては、下記の必要性を満たすことが要求だと。
  ・「技術立国の日本」を支える技術者の必要性
  ・技術力のみでなくビジネス戦略などの広範囲なスキルの必要性
  ・スピードと変化にフレキシブルに即応できる技術者の必要性
  ・これらのスキルを短期育成する教育の仕組みの必要性


IDマガジン購読

現在 666 名の方がIDマガジンを購読中です。 定期購読ご希望の方はメールアドレスを登録してください。


登録後、確認メールが届かない場合「迷惑メール」となっている可能性があります。「id_magazineあっとml.gsis.kumamoto-u.ac.jp」と「idportalあっとml.gsis.kumamoto-u.ac.jp」を迷惑メールから除外して再度登録ください。←「あっと」は「@」に置換え。

おすすめ情報

教授システム学専攻の公開科目でIDの基礎を学習できます。おすすめ科目は以下です。
・基盤的教育論
・eラーニング概論