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IDマガジン第50号 (2013/11/29発行)


[050-04] 【報告】熊本大学 第22回eラーニング連続セミナー参加報告

2013年9月27日に熊本大学で開催されたeラーニング連続セミナーに参加しましたので報告します。今回のセミナーの講師はインディアナ大学のカーティス・ボンク先生と、国際基督教大学の鄭仁星先生でした。

1つ目のセミナーは、インディアナ大学のカーティス・J・ボンク先生による「Taking Leadership in Mystery of MOOCs and the Mass Movement towardOpen Education(謎多きMOOCsとオープン教育への大移動をリードするためには)」でした。新しいテクノロジとそれによって教育がどのように影響を受けたか、その問題点とこれから向かう方向についてMOOCsを中心にお話くださいました。

ボンク先生はもともと会計士をされていたのですが、ウィスコンシン大学の通信教育とテレビ授業を受講して感銘を受け、教育の道に進まれました。ボンク先生曰く「この経験がなかったら、今の自分はない」。つまり、テクノロジがボンク先生の運命を変えたということになります。ボンク先生の運命を変えたように、テクノロジは教育を変え、我々や人類の運命を変える可能性があります。

ところで、ボンク先生が紹介してくださった、アップルが1988年に発表した未来の展望である「ナレッジナビゲータ」は、YouTubeにあるので、ぜひ御覧ください(http://www.youtube.com/watch?v=hb4AzF6wEoc)。アップル社がこのビジョンを1988年に持っていて、この25年間、その方向に向けて進んできたことに驚くと同時に、「夢が実現している」ことにけっこう感動してしまいました。

テクノロジの進歩により、現在は「誰もが、いつでも誰からでもなんでも学べる時代」となりました。特に2001年4月1日は、MITが初のオープンコースウェア(OCW)を開始した日であり、テクノロジが教育を大きく変えた日と言えます。OCWの展開により、場所や年齢などを問わず、学ぶことが容易になりました。SkypeやSNSなどで、他の人と話し合ったり情報を共有したりすることがとても簡単になりましたし、動画配信ソフトなどを使えば、視覚的な情報を用いた教育が容易にできるようになりました。教育に対する考え方自体が変化し、協調学習を前提とした学習空間が誕生したり、個人での学びをサポートする様々な手段が開発されたりしてきました。

そして近年、MOOCsの展開が始まり、またもや我々の学びに変革を起こしました。MOOCsとは、Massive Open Online Coursesの略称であり、インターネットを使って大学などが講義を提供する仕組みです。MOOCsの大きな特徴のひとつは、講義の内容についてのテストやレポートなどが課され、終了するとその講義を修了証が取得できることです。MOOCsでは、理論・動向駆動型、リメディアル型、学位・資格付与・システムボトルネック型、専門性開発(実践)型など、多様な授業が提供されます。つまり、MOOCsを使えば、誰もが簡単に有名大学の講義を受講でき、それなりに苦労すれば修了証まで取得できるようになったのです。

このように夢のような状態をもたらしたMOOCsですが、批判もあります。例えば、登録者数に比して、修了者数が極端に少ないということや、続かないということです(これは従来の学習環境でもそうじゃないかと思うんですけどね…授業には出席していて姿は見えるけど、興味を失って聞いていないということも多々あるでしょうし)。その他、有名大学以外の教員からの反発もあります。つまり、MOOCsによるイノベーションは思ったより小さくなってしまう可能性もあります。そこで、ボンク先生はMOOCsを活用する方法をたくさん提案してくださいました。曰く、「最初にやれ!」「何か新しい特別なことをやれ!」「戦略的協定を結べ!」「証言を集めよ!」「ニッチな領域で強さを磨け!」「性急な決定をするな!」「心配事には先回りして対処せよ!」「質問せよ!」「地元・自国に奉仕せよ!」「形成的に評価せよ!」…あれ?なんだかこれはどこかの専攻がやってきたことのような…(笑)

MOOCsは無料で講義を提供しているわけですが、どうしてそんなことができるのか。その当然の疑問に対する答えも、ボンク先生は教えてくださいました。ざっとまとめると、講義自体は無料であっても、テストや修了証の発行にお金をかけたり、受講者たちの受講のデータを企業に売ったりすることで収入を得ているそうです。

そして最後のキーワードは、We All Learn! ボンク先生はこのフレーズを「学びの世界を開いた10個のちから」に対応させています。最初の三文字は、”Web searching”, “E-learning and blended learning”, “Availability of open source and free software”です。続きは…?ボンク先生のウェブサイトにeラーニング連続セミナーでの講演のPDFがありますので、そちらをご参照ください。
http://www.trainingshare.com/pdfs/MOOC_Leadership-Principles_World_is_Open.pdf

このようにテクノロジの恩恵を受けた現在では、さまざまな学びの方法や形態があります。ボンク先生の最後の問いは「オープンな世界ではインストラクタはどうなるのか?」です。ボンク先生は、インストラクタはキュレーター(学芸員)やコンシェルジェのような存在になるだろうとおっしゃっています。学ぶのは学習者自身であり、そのための方法や材料を紹介する役割こそ、オープンな世界でインストラクタが行うべきことであると。
このようにさまざまなオープンな学びの世界を我々はどんどん活用していくべきです。ただし、良質のコンテンツがなければ、せっかくのオープン教育の環境があっても、人は学ぼうとしないでしょう。だから、良質のコンテンツを提供するということも我々が行うべきことのひとつなのでしょう、というようなことでまとめとなりました。

ボンク先生の講演を聞き、当たり前のように使っているさまざまなテクノロジと、それを活用した教育・学習について改めて見直すことができました。そして、今後、新たなテクノロジが現れたときには、今回学んだことを活かしていきたいと思いました。

2つ目のセミナーは、国際基督教大学の鄭仁星(Insung JUNG)先生による「Quality in e-Learning: An Asian Perspective (eラーニングの品質保証:アジアの視点)」でした。これまでeラーニングの品質は提供者側の視点から保証されることが多かったが、学習者の視点を国際的、社会文化的な面も踏まえて保証していくべきというお話でした。

鄭先生のセミナーは「eラーニングの品質とは?」という問いから始まりました。鄭先生は、高い期待をもたせること(例;特別感があるもの)、標準を順守すること(例;基本を押さえている)、完全性があること(例;きちんとしていること)、目的に合致していること(例;目的とサービスが一致していること)、金銭的に価値があること(例;コストパフォーマンスが高い)、変革をおこせる(例;受講者の質的変化)を挙げられました。

続いて、それらの品質をどのように保証するかについて、2つのアプローチをご説明くださいました。ひとつは「生態学的アプローチ」、もうひとつは「成果物に基づくアプローチ」です。
ひとつめの生態学的アプローチとは、教育の現場だけでなく、ICTの側面や、他国との関係などの文脈の上で、(1)全てのステークホルダを考慮し、(2)世界を指向する一方で地元に適応し、(3)文化の創造をすることを目指したアプローチと説明されました。要するに、一部の要因だけを見て品質保証するのではなく、様々な要因の相互作用を考えながら全体的に保証していこうという考えと解釈しました。

その観点からすると、現在の品質保証は、eラーニングの提供者側の視点が重視され、学習者の意見や視点が反映されていないなどの問題点があると指摘されました。また品質を考える上では、世界でも適応できる品質保証にしつつ、自国への対応も疎かにしない姿勢、つまりバランスのとれた一般モデルの構築を目指すべきというご指摘もされました。さらに品質保証を改善する過程において、教員と学習者の価値観と実践を変化させることを目指す文化創造のフレームワークも提唱されました。

ふたつめの成果物に基づくアプローチは、アウトプット(学習者の成長などの学習直後の効果)、アウトカム(地域社会への経済効果などの短中期的効果)、インパクト(社会・経済・国家の開発などの長期的な効果)を評価する品質保証です。資金、スタッフ、リソースなどのインプットを評価する伝統的な品質保証と比較して、長期的で総合的な評価プロセスであるため、多様な情報を集め、計画、分析、改善を繰り返して評価していくことが必要となります。

このセミナーの最初に「eラーニングの質とは?」と問われ、自分でパッと思いついたのは「教育目的を果たそうとする設計になっていること」とか「インターフェースがきちんとしていること」くらいでした。セミナーで国際社会や社会文化まで視野に入れた質保証の話をうかがい、とても勉強になりました。

ちなみに心理学でも「生態学的妥当性」という言葉がありまして、簡単にいえば、日常場面などで起こりえる状態を想定して研究計画を立てることを言います。eラーニングも心理学と同じく人の行動を対象にするのであるから、多様な観点から「起こっている状態」や「起こりえる状態」を評価していくべきなのでしょうね。このあたりは熊本大学ランチョンセミナーの「インストラクショナルデザインとテクノロジ」輪読シリーズで、ここしばらくテーマになっている構成主義とも関連していて、今振り返っても興味深く思いました。

(熊本大学 教授システム学専攻 博士前期課程 平岡斉士)


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