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IDマガジン第6号 (2004/10/20発行)


[006-03]いかに企業内研修へIDを浸透させるか?

はじめまして。NECユニバーシティの櫻井です。
企業内研修部門に異動してまだ10年、社内でスタートした「遠隔教育プロジェクト」に参画したのを契機としてe-Learningに関与したのも5年前と、この分野ではまだまだ“駆け出し”です。教育学なるものにも全くの門外漢であった私が、昨年、IDの重要性に改めて気づき(≒鈴木先生に洗脳され)、遅まきながら自社グループ内にIDをどう根付かせるか、日々悪戦苦闘しています。

本稿では、企業内研修におけるID適用と現状と、その効果的活用の拡大に向けた個人
的見解(野望?)を述べさせていただきます。

※みんな揃って「IDer」??

先日も、全社レベルのe-Learningに関する打合せでこのような発言がありました。
 “e-Learningの推進拡大のため、コンテンツの品質を向上させることが不可欠だ。しかし、その対策としては単にインストラクショナルデザイナー(以下、IDerと表記)を多数養成すれば解決する問題なのだろうか?”

皆さんは、どうお考えですか?

私の意見としては、企業内研修部門のメンバー全員がIDを深く理解しこれを利活用して研修を開発運営することは理想の形であり、この文脈のもとで“みんな揃って「IDer」”であるべきだと考えます。もちろん、これが唯一の必要十分条件ではありませんが、一番重要な必要条件です。しかし、“(現状の)企業内研修部門のメンバー全員がIDerであるべき”と表現すると誤解されてしまう恐れがあります。それは、「IDerの職務範囲に関する認識のずれ」があるからです。以下、企業内研修部門におけるIDの実態に沿って説明(釈明?)します。

※人材開発スタッフもIDを勉強しよう(野望その1)

当社の属するグループの例で言えば、研修部門は概ね以下のようなグループで構成されます。
(1) 本社人事部の教育担当者
(2) 各事業ライン別人事部門の教育担当者
(3) 各事業部別教育委員会の委員
(4) 教育研修の開発運営を担当する部門(or関係会社)の社員 ←私が所属しているのはここです。
IDerという言葉自体が世間一般ではまだまだ認知度が低いことはさておき、IDなるものについて少し聞きかじった人々にとっては、「IDer」と言ってすぐに想起できるのは(4)だけでしょう。一方、(1)から(3)に属するメンバーにとって、自分をIDer呼ばれることに対しては少なからず違和感を感じるでしょう。これらは、即ち、 “IDerとは、ID理論に基づき研修コンテンツを開発する人である”と、その職務範囲を狭く誤解していることが原因です。

(1)から(3)に所属するメンバー(以下、人材開発スタッフと表記)は、人材育成計画をベースとして研修体系の企画検討することや、研修運営管理システムの構想設計が業務の主体であり、これらを具体的に実現するフェーズ(即ち、研修と研修システムの開発運用)は(4)に委託します。しかし、こういった研修体系や研修システムを検討する際にも、研修はどうあるべきかという基本的な問いに対する知見を提示するIDを取り込むことは必要不可欠です。“学習者にとって最適な学習環境(学習システム)を設計構築する人”、いわば「ISDer」とでも言うべき役割を担う人もまた、IDを深く理解したIDerであるべきです。現在、人材開発スタッフは「HRD(Human Resourse development)」に対しては十分な知識を持っているのですが、残念ながら、IDについてはあまり関心がないようです。人材開発スタッフは、IDに関連する業務の専任職である必要はありません。しかし、IDerだと言われて恥じないような知識とスキルを保持すべきではないでしょうか。人材開発スタッフにもIDをしっかり学習してもらうよう、啓発していきたいと考えています。

※講師経験こそが、ID理解の必須条件(野望その2)

他方、(4)に所属するメンバー(以下、研修実施部門と表記)はIDerだと言い切れるかと言えば、必ずしもそうではありません。IDに関する質問を投げかけられた時、表面上の答えと実態は以下のような乖離があります。
    「IDを(知識としては)知っている」
    「学習目標は(いつもとはいえないが)提示している」
    「達成レベル(曖昧な表現ではあるが)は規定している」
昔、企業内教育部門では、自らが研修カリキュラムの詳細を開発し“講師”として登壇するメンバーが多数を占めていました。彼ら全員がID理論を体系的に学習し十分に理解していたとは言い切れません。しかし、長年にわたる“リアル研修”の実地経験がIDとつながる“暗黙知”を一人ひとりのノウハウとして形成していたはずです。その意味において、彼らはインストラクターであるとともにIDerだったと言えます。しかし、全社共通業務部門やスタッフ組織のスリム化が進み、このような専任“講師”の人数も減少しています。逆に、現在の企業内教育部門では社内外のSMEを招聘して研修を実施する“仕切り屋”的な業務の比重が大きくなっています。こういった業務形態に移るに従い、“講師”としてのIDノウハウやIDそのものに対する重要性認識が薄まるばかりではなく、組織としてのID力が低下していることは否めません。研修部門(1)から(4)の全てにおいてIDの重要性を再認識することが重要であるとともに、(1)から(4)のメンバー全員、自らが何らかの形で“講師”としての経験を継続しIDを実践する場を持ち続けることでID力の向上改善に努めるよう、関係部門へ提言していきたいと考えています。

※IDをしくみに組み込もう(野望その3)

近年、技術革新やマネジメント手法進化のスピードが増大する中、最新の技術や手法に関する研修ニーズも高まっています。これに対し、研修実施部門(4)では社内外のSME(Subject Matter Expert)を招聘して研修を実施します。社外講師で対応する理由は、内部講師の増員が基本的には認められない中、非専門家である内部講師ではとてもこの技術変化のスピードをキャッチアップできないというのが本質的な要因です。しかもこの手の研修は“旬”が重要であるため、研修の開発リードタイムも短縮することが強く求められます。結果として、研修実施部門は、研修概要だけを企画してSMEに伝達し、詳細はSMEに任せっきりという状況に陥ります。このようなケースでは、研修実施部門のメンバー自身がIDを修得していたとしてもそれを研修に十分活かせないことになります。それならばとSMEにIDを勉強してもらうことは、それ自体にはそれなりの意義自体があるものの、現実的な解ではありません。ただでさえ忙しいSMEに、IDまでを考慮して研修を実施することを求めるのは酷だと言えます。ではどうしたらいいのか? 研修実施部門(4)が、“非IDerが、IDを意識することなく、IDに基づいたコンテンツを開発するようにしくまれた環境(IDプロセス)”を開発し提供することが解の一つだと考えます。具体的には、「作成ガイダンス」の制定や「チェックシート」等のフォーマット整備からスタートすることになります。しかし最終的には、SMEと研修実施部門双方の作業工数を極限まで削減しつつ一定の成果を保証できる「典型的研修コンテンツ開発環境」を構築したいと思います。

※eラーニングへの期待

eラーニングは、その他の非eラーニング型研修(集合制研修)などにはないメリットを多数保有しています。その中でも、“e”によって研修システムをシステマティックに構築運営できることは重要です。従来は“講師”という属人性の高い要素に依存していた研修が、より体系的に、より普遍的に、しかも大規模に実施できるようになります。直前に提案した「典型的研修コンテンツ開発環境」についても、eラーニングの領域に限定すれば、かなり実現性は高いのではないでしょうか? 他方、eラーニングの場合、コンテンツやシステム開発者は受講者の反応を直接的かつ即時に受け取れないという課題もあります。こういったeラーニングの特性を踏まえつつ、IDとの親和性が高いeラーニングの領域をメインターゲットとして、企業内研修へのID浸透に取り組んでいく予定です。
                    
2003年eLF修了生


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