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IDマガジン第7号 (2004/11/28発行)


[007-03]国際協力事業におけるIDの実践

日本国際協力センター(ジャイス(JICE))沖縄支所の徳村です。国際協力のなかでIDの実践事例として私の業務を紹介したいと思います。JICEは国際協力機構(ジャイカ(JICA))の国内(研修)事業を支援する機関です。JICAの国内研修機関の一つである沖縄国際センター(OIC)で開発途上国から研修のために来日した研修員を対象に人材育成研修を実施しています。対象者は、開発途上国においてメディアを利用した教育、訓練、普及、啓蒙に携わる人びとです。具体的に研修に参加するのは高校、大学、職業訓練など働く教師、講師の方々で研修員と呼びます。彼ら研修員を対象にIDの考えに基づいた教材開発の研修を実施しています。

1 IDに関わるきっかけ
私が担当する「教育メディア技術研修コース」ではメディアの教育利用を念頭においた教材開発についての研修を実施しています。研修科目の一つに教材開発手法についての講義があり、その科目を担当するようになったのがIDに関わるきっかけです。コンピュータの教育利用が盛んに研究されハイパーカードなどを利用したCAI(Computer Assisted Instruction)教材の開発・利用が注目されていた1994年頃の話です。私のIDとの関わりは「伝統的」なインストラクショナル・デザイナー(eLFはしがき)から始まったといえるでしょう。日本でもe-ラーニングが注目されるにつれて、IDも認知されてきたことをうれしく思う一方で、あまりの注目度の高さに戸惑いを覚えます。e-ラーニングのeが取れた頃にIDが日本で生き残っていることを願っています。

2 ID実践事例
さて、技術研修におけるIDの位置づけについてお話しします。技術研修ということで、機材やソフトの操作技術習得に重点をおいて研修になりがちですが、そうではなく、教材開発手法の一つとして系統立てた戦略で教材開発に臨むことに主眼をおいています。メディア制作の研修コースの流れは、企画、設計、製作、評価、改訂というふうになっています。ADDIEモデル(Kruse and Keil(2002)、鈴木(2003)eLF第2章)に近いモデルですが、私はよくASSUREモデル(Heinich, et al.(2002))を紹介します。それは、対象者分析や到達目標設定がそれぞれ独立した項目になっており、さらに教材の改訂作業も明示されているので、教材開発プロセスを説明する場合に分かりやすいモデルだからです。ASSUREモデルのそれぞれのプロセス、すなわち対象者分析、到達目標設定とプロセスの順をたどり、開発した教材の実施・改訂行うことで、品質が保証された教材ができあがる仕組みを説明するのです。その考えを踏まえて「ではみなさん、効果的な教材をつくってみましょう」と技術習得型の研修に移行するのです。評価・改訂が研修コースのなかで実施される点がユニークだと思います。 技術研修では、機材やソフトの操作スキルを習得できれば目的達成となりがちですが、わたしたちのコースでは、教材の質の向上目指すため制作したメディアの評価・改訂まで組み込んでいます。この評価・改訂は形成的評価と位置づけています。制作会社でQA(Quality Assurance)と呼ばれているのがこれに相当すると考えていいと思います。この形成的評価の時に、制作の初期段階で設定した到達目標に立ち返り、評価を実施します。自分の教材が評価されるという緊張感と「自分が、当然と思っていたことが伝わらない」「実はそうではなかった」などの発見があるので教材開発プロセスで一番のクライマックスです。しかし、教材開発の締め切りに追われて全力投球してきた研修員にとって改訂作業は、作業のやり直しを意味しモチベーションが下がってしまうこともしばしばです。そこで、形成的評価の意味、すなわち教材の質の向上の重要性を再確認しモチベーション維持に務めています。改訂作業の重要性を理解してもらういい方法はないか、と毎日思案しています。

3 教育メディア技術研修コースの今後
研修員が帰国後「研修で得た知識や技能がいかに役立っているのか」「彼らの組織にどの程度貢献しているのか」すなわち「ニーズに合った研修を提供しているのか」「その研修の質はどうか」という研修実施の妥当性を示す必要があると考えています。教材評価の次は、研修の質を評価する取り組みを始めなければと考えています。そのときにe-ラーニングがどのような貢献がきるかを検討しなければならないでしょう。旧態依然とした集合研修の枠組みから抜け出す機会になるのだと思います。

4 参考
4.1 ADDIEモデル(Kruse and Keil(2002)、鈴木(2003)):
A:Analysis(分析)
D:Design(設計)
D:Development(開発)
I:Implementation(実施)
E:Evaluation(評価)

4.2 ASSUREモデル(Heinich, et al. 2002):
A:Analysis learners(対象者分析)
S:State objectives(到達目標設定)
S:Select methods, media, and materials(手段、メディア、教材の選択)、
U:Utilize media and materials(メディア、教材の利用)
R:Require learner participation(学習者の参加を促す)
E:Evaluate and revise(評価改訂)

5 参考文献
5.1 Heinich, R., Molenda, M., Russel, J. D., and Smaldino, S. E. (2002). Instructional Media and Technology for Learning. Merrill Prentice Hall, pp.52-83.
5.2 Kruse, K. and Keil, J. (2000). Technology-Based Training: The Art and Science of Design, Development, and Delivery. Jossey-Bass/Pfeiffer, p.133
5.3 鈴木克明(2003).e-ラーニング・ファンダメンタル(eLF)


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