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IDマガジン第73号 (2018/5/21発行)


[073-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(69) :~評価は白黒をつけるために行うものではない、黒を白にして終わるためのもの~

『学習設計マニュアル』が増刷になるという嬉しいニュースを知らせるメールが届いた。この本は爆発的に売れるはずだ、と思って世に出したものだが、出だし好調はありがたい。爆発的、と言える結果が出るかどうかはまだわからないので、まだ「爆発的に売れるはずだ」という思い(願い)を捨てずに、もうしばらくの間は夢を見ていることにしよう。

さて、一つ手離れになると次を考え始めなければならない。そういう気分が徐々に高まってきた。どこでどのような実践に接しても、今度は「評価」のことが気になりだした。

あるプロジェクトでロールプレイで接客の実技を身につけてもらう研修を大幅に変えようという改訂案へのコメントを求められた。講師が受講者全員分のロープレをチェックできれば良いが、時間の制約からグループ相互評価を採用している事例だ。

ロープレだから当然それは、運動技能が伴う学習課題。知識が豊富でも実行できなければ接客はできない。その基礎になるのはどういう場面ではどのように対応すべきかという応用的な知識(すなわち判断力などの知的技能)。さらにその基礎になるのは関連知識を覚えておくこと(こちらは言語情報)。全部のパターンを覚えてそれをロープレする(つまり言語情報と運動技能だけで構成する)だけだと応用力はつかないので知的技能を意識することが肝要。それらの学習成果が絡まって、「ロープレができる」という状態になる。

ロープレの評価には、チェックリスト(あるいはルーブリック)を用いるのが常套手段だろう。観点をいくつか決めて、それぞれがOKの状態かどうかをチェックする。ロープレのたびに「未知の要素」が登場し、それで適用力を評価する。状況設定を十分用意すれば、丸暗記ロープレからの脱却が図れる。

試行した改訂版研修では、いくつか問題が出てきたという。最大の問題点は、相互評価ではよい点数がついていたが、研修を観察していた外部評価者がその妥当性をチェックしたところ、「この出来栄えでこの点数は過大評価ではないか」という疑義が生じたことだという。どうしてそんなことになってしまったのか。相互評価の限界なのか。やはり時間をかけてでも講師が受講者全員分を評価しなければダメなのか。何かやり方を工夫することで過大評価を避けることができないものか。

いろいろと考えを巡らせていると、「評価は白黒をつけるために行うものではない、黒を白にして終わるためのものだ」という名言を思い出した(出典不詳、もしかすると自分がどこかで書いたことかも・・・)。相互評価が甘めになるのは、もちろん遠慮もあるだろう。でも「このロープレで評価を5(合格)とした根拠は何か」と問われれば、その答えに詰まる局面になるのだろうか。それとも「これは5で良いと思った」と主張されるのだろうか。そもそもチェックリストに合致したロープレなのか(あるいはこのロープレはルーブリックのどのレベルか)という判断が正確にできる準備が十分なされてから相互評価を行ったのだろうか。

他者のパフォーマンスを正確に評価するのはそう簡単なことではない。ましてや自分自身が学んでいる最中の相互評価であればなおさら困難だ。それは認めつつも、他者のロープレを見て評価し、その審美眼を鍛えていくことは有効な学びのプロセスだ。自分ではわかりにくい点は他者からの評価を受けて気づいていく。他者を評価する経験を積んで自分の振る舞いを客観的にチェックできる評価力を身につける。そういう意味からも、相互評価がしっかりできるようになることを目指すのは、あながち無意味とは言えない。

グループごとに分かれて相互評価をする前に、全体を相手にロープレのデモをするという実践事例にどこか他で接したことを思い出した。全員を相手にデモして、「このデモはどのレベルか?」と問う。「そう思う理由は?」「それは違う。なぜならば・・・」これらのやり取りを通じて、評価のブレを修正していく。そしてその後でグループごとの相互評価に入っていく。一斉デモと評価練習・フィードバックを経ることで、3段階目のロープレを見て「私はこれは5段階だと思った」という誤解に基づく相互評価は避けることができるだろう。

グループごとの相互評価も、最初から評価結果を記録して提出、ではダメだろう。そういう一発勝負の状態では、評価は遠慮がちになるのが自然である。そうではなく、グループ内の相互評価を一巡したら、その結果を本人に開示し、そう評価した理由を説明・合意し、修正の練習と再評価のサイクルを回すのがよい。修正箇所を見つけてそこに集中して直していくための最初の評価だ、という位置づけが浸透すれば、遠慮なく(できるだけ正確を期して)評価することができるだろう。

理由の説明を求められれば、いい加減なチェックはできなくなる。互いに未達成ポイント、つまり「伸びしろ」を確認し、修正練習の結果「伸びた」ことを確認し合うことができれば、全員合格への道に通じるのではないか。つまり、黒を白に近づけて終わるための評価、という本来の役目が果たせることになる。

そこまで念入りに評価をやる必要があるのか。→その通りです。
そんな時間は確保できない。→そうであれば確実に実技を身につけることはできません。
情報提供を集まってからやっている時間はないので事前課題にする必要があるということですね。
合格できない人には再チャレンジのチャンスを設ける必要があるということですね。

評価を考えていたつもりだったが、自然と教える手順のアイディアにつながっていった。これこそが次作『評価設計マニュアル』の構成枠として考えている「教材開発の三段階モデル」(『IDの道具箱101』p.120-121)であり、「評価は最後に行うものではない」とするTOTEモデル(同書p.162-163)が説くところでもある。

設計の中核に評価あり。評価から設計が始まる、ということを再認識した経験だった。まだ緒に就いたばかりの段階ではあるが、なるべく早く『評価設計マニュアル』を世に問えるよう、精進します(有言実行宣言でした)。

(ヒゲ講師記す)


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