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IDマガジン第75号 (2018/10/9発行)


[075-03]【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ: 第16章「学習オブジェクトと教授理論」(デービッド・A・ワイリー)

この章では、教授を構築する基本単位であり、再利用可能な構成要素である「学習オブジェクト」(Learning Object;LO)の利用について述べています。LOは、「個別に指定可能な内容のまとまりであり、さまざまな教授シナリオに再利用できるもの」です。基本単位となる部品(LO)の組み合わせで教授を構築するという考え方です。 eラーニングコースでコンテンツや学習活動を配置する様子がわかりやすいと思います。LOはデジタルとは限りませんが、共有・修正・再利用すると考えると、デジタルの方が適していると言えます。

LOについては、次の3種類に分けて議論するとよいとワイリーは述べています。
(1)内容オブジェクト:自己完結した情報のまとまりのことで、情報は、文字、画像、音声、動画として提供されます。たとえば教材の解説部分(コンテンツ)が相当します。
(2)方略オブジェクト:純粋にロジックだけで、教授の手続きやプロセス、パターンを含みます。たとえば、内容の提示方法、練習やフィードバックの方法などです。テンプレートで提供される場合や、コンピュータのアルゴリズムとして実装されるものまであります。
(3)談話オブジェクト:学習者間のインタラクションに足場かけを行うものです。内容の作成や追加を行うのは学習者です。たとえば、Wikiや掲示板などが該当します。

これら3種類のLOは、明確に切り分けられません。学習目標到達に向けて内容が構成されますので、内容オブジェクトには何らかの方略が入ってくる方が自然です。また、LOの留意点として、仕様(規定の厳格さ)、範囲(粒度,LOの大きさ)、系列(LO間やLO内の系列)が示されています。これらは、再利用性、自動化、学習効果に影響します。

LOの仕様(作り方)を厳格に定め,構造化されている方が、コンピュータによる自動処理に向きます。LOの定義は広く、教授内容に関わるものはすべて内容オブジェクトと見なせます。すべてを許容すると、内容の構造をあらかじめ想定できないため、自動処理が難しくなります。内容を構造化した最たる例は、IDマガジン第5号で紹介した「教授トランザクション理論」です。コンピュータ上の学習環境に実装された方略オブジェクト(アルゴリズム)によって、厳格な仕様に基づいて作成された内容オブジェクト(データ)が制御され、教授方略に従った内容の提示を実現しています。方略をそのままに内容を入れ替えることも簡単にできます。一方で、厳格な内容オブジェクトは、表現に大きな制約を受けます。談話オブジェクトの場合? ??同様で、協同議論支援ツールなどで特定の発言(主張や論拠など)を順序に従って応答させるのは,構造化されている例になります。

LOの範囲(粒度)については、「再利用性のパラドックス」があります。学習オブジェクト単体の学習効果はその再利用性に反比例するというものです。一般に再利用性を高めるには粒度を細かくしたり、できるだけ文脈から切り離したりすることが求められます。しかしながら、1つ1つの内容を独立させず、教授の文脈にあわせて各内容を深く関連づけながら説明した方が、学習者にとってはわかりやすくなります。ワイリーは、再利用への犠牲はほどほどに効果をある程度優先するあたりがねらい目であると述べています。

LOの系列については、たとえば内容オブジェクトをどのような順序で示すか、すなわち系列化の問題になり、精緻化理論や前提条件などが関係してきます。考えなしにLOを配置しても、学習効果は高まりません。

教授をLOの観点で捉えると、特に再利用性や、自動化可能性を考慮した議論が可能になります。教育のオープン化の流れもあり、リソースを共有・修正・再利用可能にしていくことは今後ますます重要になります。また、できるだけ自動化していくことも、効率化につながります。ワイリーは、言語・慣習・文化に適合させるローカライズの重要性を強調しています。なお、別の書籍となりますが「インストラクショナルデザインとテクノロジ」(鈴木克明・合田美子監訳、北大路書房、2013)の第30章に学習オブジェクトの解説がありますので、併読をおすすめします。

(岩手県立大学 市川 尚)


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