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IDマガジン第8号 (2004/12/21発行)


[008-04]国際協力事業におけるIDの実践~(第1回)ミャンマーにおいて民主化教育が普及できるのか?

ちょっとドラスッティックなタイトルになりましたが、この12月に始まったばかりの フレッシュで且つチャレンジングな教育分野の国際開発プロジェクトを皆さんに紹介 したいと思います。

最近教育分野の国際協力において大きなトレンドとなっているのが、学校運営や就学 率向上を地域住民参加で進めていくプロジェクトと、もうひとつが途上国での教育に おいて児童中心型教育(注1)の考え方や手法を導入する案件です。本稿では現在私 が仕事で参加している国際協力のプロジェクト「ミャンマー児童中心型教育強化プロ ジェクト」について紹介したいと思います。このプロジェクトは2004年12月に私の所 属する会社が国際協力機構(JICA)から競争入札で受諾した案件で、2007年11月まで 3年間かけて、これまでの教師が主役の詰め込み主義の教育から児童中心教育へと変 革を導入するとてもチャレンジングなプロジェクトです。

(注1)児童中心型教育とは、子どもの興味・関心を最大限に考慮し、子どもの興 味・関心に基づいて能動的で活動的な学習活動を展開していこうとする教育です。児童中心型の学習においては、子どもに自由に考える機会を与え、創造的かつ想像的な 思考の発達をめざします。また、子どもを取り巻く環境に注目し、社会で直面する 様々な問題や困難をいかにして解決するかという問題解決型学習を取り入れます。)

来週ミャンマーに出張し、教育省においてワークグループを編成し、プロジェクトの 各コンポーネントの目標や実施方法を議論しますが、皆さんもご存知の通りミャン マーは鎖国に使い閉鎖的な社会主義そして軍事政権で、最近またアウンサン・スー チー氏(ミャンマーの民主化運動のリーダーで91年ノーベル平和賞受賞者)が自宅軟 禁されたという話は聞いていると思いますが、ミャンマー人の海外への出国は基本的 に認められず、インターネットも一部の環境でのみ政府に閲覧を登録したサイトしか アクセスできません。国際電話も全て盗聴されており、以前わが社のコンサルタント が話の中で「日本の民主化教育が始まったのは。。。」という話がちょっと出ただけ で、当時会場にいた参加者全員が家宅捜索を受けたという話です。このような国で学
習者が自ら考えて行動することを進める児童中心型教育の普及とはまさしく民主化教 育を促進するための試みなのです。この案件がどのような経緯で現地の政府の承認を 受けて日本政府に正式に協力要請されたか詳しいことはまだわかりませんが、不安と 期待で複雑な心境です。

私が担当する国内20校の教育大学カリキュラム改善も含め、プロジェクト自体がID の見直しと普及が中心であるため、これから展開するドラマと開発のプロセスをIDマガジンを購読している皆さんと共有していければと思います。とりあえず今回は第1回としてプロジェクトの概要を紹介します。
(以下JICA入札公示書類から抜粋しコメ ントを付け加えた)

【プロジェクトの背景】
ミャンマー国の初等教育は、正規の就学率が67%、修了率が40%程度と低い水準にと どまっており、その理由として、暗記・暗唱を中心とした教授方法及び硬直した進級・進学制度が指摘されています。現行の評価制度では、暗記量を測る試験により進級・進学が決定されるため、暗記できない児童は進学ができなません。このため、暗記・暗唱中心型の学習から児童中心型の学習への転換が必要とされています。
JICAは、1997年から1999年にかけて個別専門家「基礎教育カリキュラム改善」を教育省に派遣しました。その後2001年3月から2004年3月まで、開発調査「基礎教育改善計画調査」を実施し、暗記型学習から児童中心型学習への転換を支援するため、(1)理科・社会科・総合学習の3教科における教師用指導書の作成、(2)教育大学における教育・研修機能強化方策の提案、(3)小学校建設・補修にかかる整備計画の策定を行いました。

 JICAのこれらの協力は、ミャンマー国の教育改革にインパクトを与え、教育省は、個別専門家の提言を採用しました。さらに開発調査の提言を踏まえ、児童中心型学習を基礎教育における基本的な教授・学習方法とすることを全国に通達し、その普及のための中核的機関として基礎教育リソース開発センター(Basic Education ResourceDevelopment Center: 以下BERDC)を新たに設置しました。

【プロジェクトの目的】
 本プロジェクトの目的は、BERDC及び全国の教育大学(全20校)を拠点としたカスケード方式(注2)により、児童中心型学習を選定された地区の小学校で実践することです。主な活動として、児童中心型学習の普及の担い手となる(1)BERDCスタッフ、(2)教育大学の教員、(3)教育管理者及び学校郡トレーナー、及び(4)学校教員を対象とした研修プログラムの開発・実施、教育大学のカリキュラムの改訂、児童中心型学習の考え方に基づいた児童の評価制度の開発、児童中心型学習の実践に対するモニタリングを実施します。

(注2)カスケード方式とは滝のように下へ流れていく仕組み。言い方を帰ればねずみ講式で指導を受けた人がその下の人たちに更に指導して技術や知識が広がっていく仕組みのこと。

【団員構成】
団員は以下のメンバーで構成されています。
プロジェクトマネージャー(総括):笹尾隆二郎(アイシーネットシニアコンサルタント)
研修開発(副総括):坪内睦(アイシーネット教育コンサルタント)(彼女はこれまで3年間開発調査の専門家として関わってきた人)
CCA技術指導:田島伸ニ(国際識字文化センター代表、元ユネスコアジア・文化センター職員)(彼も前の開発調査の団員)
CCA普及・モニタリング:山岡智亙(アイシーネットスタッフ、元協力隊理数科教育隊員)
教育評価:久保田賢一(関西大学教授、ご存知教育工学会副会長の久保田先生)
教育大学カリキュラム:伊藤拓次郎(アイシーネットコンサルタント)

(CCA:Child Centered Apprach,つまり児童中心型教育のこと)

【対象地域】
ミャンマーの20の教育大学を通じてそれぞれの大学周辺の合計27のタウンシップにおいて随時学校教員に対してCCA研修を実施していきます。
ちなみにミャンマーの教育大学は高校卒業後1年と2年のコースがあり、日本では短大に相当します。

今回は2週間だけの現地調査ですが、来年2月~3月には1ヵ月半強現地入りし、CCA理論に照らし合わせた教員養成大学カリキュラム見直しから、教員への教育方法のトレーニングなどを開始します。難しいのは、3年間で現地に実際に行って活動するのは合計7ヶ月、毎年2ヶ月間強程度しかないのです。現地カウンターパート(つまり仕事を一緒に進めるパートナー)の能力やポテンシャルをいかに引き出すか、そして如何にして自立発展していく仕組みを作り出すかが目標達成のポイントです。

3月にはIDマガジン特集のその2で、如何にして大学教員の態度の変容へ導くのか、また参加型手法を用いたカリキュラム・教材見直し改善作業について紹介したいと思います。どうぞお楽しみに。 (鈴木研究室D3伊藤拓次郎)


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