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[009-05]STAR遺産モデル

岩手県立大学鈴木研究室では、ID理論に関する通称GreenBook(みどり本)と呼ばれる”Instructional-design theories and models.”のVolume2を輪読しています。今回はその中で第9章のSTAR遺産モデルについて紹介します。

◆概要
STAR遺産モデル(Schwarts, et. al., 1999;三宅・白水、2003)は、教材のすべてを設計・開発者が決めて提供して教師や学習者に何の選択の余地も残さないアプローチと、何も設計・開発者が決めないですべて教師や学習者に任せて助言も提供しないアプローチ(両極端)の中間的な位置づけをねらったIDモデルです。1990年代のアメリカでもっとも注目されたマルチメディア教材「ジャスパーシリーズ」(鈴木、1995)の開発で、小学校の教師が開発者の意図に沿わない利用方法を採用して授業をした経験から、任せるだけではなく何らかの利用ガイドの必要性を感じたことから発想したモデルです。IDプロセスは、初期デザインを行う教材設計者と、利用者である教師や学習者、地域の人々などが協同して行う創造プロセスであると考えて、初期デザインの重要性も認めながら、一定の範囲内で利用者が柔軟に使える適応性を持たせる方法を提案しています。

STARは、Software Technology for Action and Reflectionの略です。ICTの活用により、利用者が次の利用者のために遺産[Legacy]を残せるしくみを9つのステップで提供し、フレキシブルで成長する教材を実現しました。LEGACY画面は学習サイクル(ステップ2~7)をメニュー画面に図示します。利用者に、学習過程の中で今どこに位置するかを思い出させ、次にやるべきことを示すと同時に、何回かまわるときに複数のチャレンジの類似性に気づかせる効果を狙っています。学習サイクルを提示することがこの場合、教材設計者が提供する枠組みで、それを意識しながら教師や学習者が、自分たちの工夫を凝らして問題を解決していく。そのことで、教材設計者が意図する学習プロセス自体を身につけていくことが期待されています。学習の目的は、深い理解を得させると同時に、問題解決や、協同学習、コミュニケーションのスキルを向上させることに置かれています。3回の学習サイクルを繰り返すことで、与えられた問題を考える問題解決型の学習から、自分たちで問題を発見していくプロジェクト型の学習へと進められます。柔軟な適応性を持つ学習環境をサポートする明快なフレームワークを提供し、新しい教育プログラムを考えるときの豊富なガイダンスとモデルの形成過程での実証研究に支えられた方法論を提供していることが高く評価されているモデルです。

◆STAR遺産サイクルの9段階
STAR遺産モデルの骨格をなす方法は、次の9段階です。このうち、第2から第7段階を3回繰り返します。

1.先を見る・あとで振り返る「双眼鏡」
チャレンジすることがどんなことかを理解させ、今すぐにチャレンジする機会を与え(事前テスト)、あとで振り返り自己評価するためのベンチマークを提供。動機づけのための画像、解説、質問。[学習目標を列挙するだけではイメージが湧かないための工夫]

2.最初のチャレンジ(サイクルの始まり)
学習することが何かをイメージさせる(メンタルモデルを持たせる)[3つのチャレンジが用意されている。チャレンジは誰かが困った状況を示して、学習者に解決してくれるように頼むビデオなどが使われる]

3.アイディアを練る(問題と解決策)
アイディアを電子的なノートに書き出し、クラスで共有する。考えを外化させ、アイディアを交換させ、教師にも知らせる。初期段階がどんな状況だったかを記録してあとで成長を実感できるベースラインにする。

4.多視点から眺める(モデルの提示)
専門家の視点と術語に触れ、自分たちのアイディアと比較させる。何が不足しているかを確認し、現実的なゴールを設定する。様々な考え方があることを知らせる。[正解を教えずに、追究の方向性を示す効果がある。同時に、良質のレポートの例を提示する効果もある。]

5.研究と修正(学習者が挑戦する)
情報収集、協同作業、『ジャストインタイム』講義、スキル向上レッスン、他の生徒の残した作品(遺産[Legacy])鑑賞、シミュレーションや擬似体験活動など。

6.度胸試し(形成的なテスト)
準備ができたと感じたときに挑戦させる。多肢選択テスト、小論文、作品作りなど様々な形のテスト。チェックリストなどで何を参考にすれば合格基準に達するかをフィードバック。動機づける。

7.公開(サイクルのおわり)
最良の解決策を提示させる(電子的な公開、プレゼンテーションなど)と同時に、後輩へのアドバイスを遺産[Legacy]として残させる。思考を外化、自己評価・相互評価のやり方を会得させる、達成基準を明確にし、相互に学びあうことやより高い基準を目指すように仕向ける。公開することの意義を理解させ、サイクル全体を振り返らせる。

8.徐々に深める
テーマを相互に関連させて、徐々に高めていく。徐々に大きな問題に高い理解に導く。問題解決型で選択させるチャレンジから、プロジェクト型のデザイン(創造)させるチャレンジに進む。

9.遺産[Legacy]についての振り返りと決断
3回目のサイクルが終わったら、「双眼鏡」に戻ってどのぐらい高まったかを振り返る。困難でいらいらした体験のあとで忍耐強さがもたらす結末(良い結果)を示す。どの遺産がもっとも後輩にとって良いものになるかを決めさせる。最もよい遺産と振り返りの過程をCDに焼き付ける。

以上、大まかにご紹介しましたが、さらに詳しい内容は、鈴木研究室「輪読の輪」のページ(http://www.et.soft.iwate-pu.ac.jp/~core/)の「輪読の輪 第2弾 インストラクショナルデザイン 理論とモデル 2」の第9章に図表などと合わせてまとめたものが載っておりますのでご覧下さい。

参考文献
Schwarts, D. L., Lin, X., Brophy, S., & Bransford, J.D. (1999). Toward the Development of Flexibly Adaptive Instructional Designs (Chapter 9). In C.M. Reigeluth (Ed.). Instructional-Design Theories and Models Vol.II: A New Paradigm of Instructional Theory. LEA.

三宅なほみ, 白水始, 2003, 「学習科学とテクノロジ」, 放送大学教育振興会(第4章 レガシーという仕組み)

今井むつみ・野島久雄,2003,「人が学ぶということ」,北樹出版(社会的文脈に埋め込まれた学習)http://www.coglearning.com/frame08.html

鈴木克明(1995)「教室学習文脈へのリアリティ付与について―ジャスパープロジェクトを例に―」『教育メディア研究』2(1) 13 – 27。http://www.iwate-pu.ac.jp/home/ksuzuki/resume/journals/1995b.html

(岩手県立大学 鈴木克明)


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・基盤的教育論
・eラーニング概論