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[013-06]第7弾 Collaborative Problem Solving (協同による問題解決)

関西の教育工学を専門とする若手研究者によるeel研究会(http://www.murakami-lab.org/masayuki/eel/)では、ID理論に関する通称GreenBook(みどり本)と呼ばれる “Instructional- design theories and models.”のVolume2を題材に勉強会を開いてきました。筆者も、IDについていっしょに議論できる若手研究者を求めて、この研究会に参加しています。今回はその中で第11章のLaurie M. NelsonによるCollaborative Problem Solving(CPS:協同による問題解決)ついて紹介します。

<協同による学び>
 学校であれ職場であれ、グループで学習したり、目的をもった何らかのプロジェクトに参加することがあります。メンバーどうしでコミュニケーションをしながら、課題解決に取り組んだり、新しい商品企画に挑戦したりといった協同作業(コラボレーション)が生まれます。Nelsonが着目したのは、こうした協同的な活動の過程で参加者は何を学ぶのか、そしてどういった問題解決場面をつくることが適切なのか、という点です。

 学習者の協同を重視するという発想は、古くはJ.Deweyの「学校と社会」(1915)において主張されています。競争的な関係ではなく、学習者間の協同や、学習環境と実社会との相互作用を重視するデューイの教育観は、その後の数多く開発されてきた協同学習法における価値規範となっています。

 協同学習として代表例を挙げるとAronson(1970)によるジグソー法があります。ジグソーパズルのように学習グループの組み合わせを組み替えることで学習者同士の話し合いを活性化させる方法です。協同学習法の研究では、学習グループの組織の仕方、活動のさせ方などについてガイドラインを示してきました。一方で医学・薬学の分野で討議と調査によって問題解決を図る問題解決学習は、問題解決のシナリオや文脈を重視してきました。Nelsonは、協同学習と問題解決学習という2つの学習についての理論をCPSに統合したのです。

 CPSには、次のような教育的価値が埋め込まれているとNelsonは述べています。

a)状況に根ざした、学習者中心、統合的かつ協同的な学習環境の提供
b)学習内容の真正性、学習者の主導権、学習経験との関連性への配慮
d)主体的な参加者として学習プロセスに学習者自身がかかわる
d)批判的な思考や問題解決のスキルを育てる
e)多面的な視点で探究・分析する姿勢をひきだす
f)学習における社会的な文脈の重要性を認める
g)学習者間や学習者と教師が尊敬しあう関係を築く
h)生涯学び続ける意欲とスキルを身につける

<CPSが提供するもの>
 それではCPSの中身を見ていきましょう。CPSはComprehensive Guideline(包括的なガイドライン:以下、ガイドラインと略) とProceess Activities(活動プロセス)の2つから構成されています。

1.ガイドライン
 CPSを実施する上での「考え方」を示したのがガイドラインです。教授者、学習者、両者がそれぞれ実施するべきことと、対話方法を、豊富な協同学習、問題解決学習の先行研究の知見を整理しています。

■教授者が実践すべきこと
 -リソース,チューターとして振る舞う
 -小グループで時間を気にせず学べる学習環境をつくる
 -学習内容(コンテンツ)と学習プロセスに即した課題提示
 -学習者に求められた時に指導する
■学習者が実践するべきこと
 -問題解決に役立つ情報・知識を選ぶ
 -活動時間の中の個人とグループの割合を明確にする
■教授者と学習者が実践するべきこと
 -学習のテーマとゴールを相談して決める
 -学習の進み具合についてミーティングを持つ
 -学習リソースを集める
 -複数の方法で学習者を評価する
 -個人とグループの評価を示す
■対話方法
 -ソーシャルスキルを学び、適切に使う
 -グループづくりの活動をする
 -探求・相互作用・内発的な意欲を引き出す
-問題解決に参加する学習者間の相互作用を促す
 -平等な参加を保障する
 -前向きな相互依存関係を活用する
 -全員が貢献・参加できるようにする
 -対面で認め合う機会
(P251のTable 11.1と本文から作成)

 すべてを解説するには紙幅がとても足りませんが、確かに協同学習、問題解決学習を実施するときに挙げられるポイントの多くが、このガイドラインの中に整理して示されています。ただ、残念ながら1つ1つの方法と方法の間の整合性、あるいは順序性といった面からの考察は本論の中では述べられていませんでした。

2.活動プロセス
 こちらはより具体的な段階が述べられています。9つのステップによってCPSの青写真が描かれています。必ずこのステップを順番にクリアしていくことを保障するのものではありませんが、これも1つの目安として活用することができそうです。

■1.教授者と学習者で協同的な活動ができるようレディネスを確保する
■2.混成(性別・人種・スキルなど)グループをつくり、グループのルールを決めておく
■3.グループが取り組む問題を把握し、解決プランを練る
■4.プランを実施するためのグループメンバーの役割を決める
■5.CPSプロセスを繰り返す
・プランを見直す
・作業を明確にする
  ・必要な情報やリソースを集める
  ・(学習者は)必要なリソースやスキルを得るために教授者とかかわる
  ・獲得した情報やリソースをグループの他のメンバーに伝える
  ・問題解決やプロジェクト開発に取り組む
  ・個人の貢献とグループの活動状況を定期的に報告する
  ・グループ間の協同と評価に参加する
  ・解決案やプロジェクトについて形成的な評価を実施する
■6.グループで解決案やプロジェクトをまとめはじめる
■7.学習成果をふりかえり共有する場を設ける
■8.成果とプロセスに対する評価を実施する
■9.学習活動の最後のまとめをする
(P258のTable 11.2と本文から作成)

<CPSはいつ、どんな場合に有効なのか?>
 最後に、CPSが有効な課題、学習環境、教授者・学習者の適性について補足しておきます。

条件1:発見的な課題、概念理解や新たな認知方略の獲得を必要とすること:「自転車の組み立て方」のような答えの明確な手続き的な知識は、そもそもCPSのような協同作業をしなければ身につかないものではありません。状況によって求められる答えがちがったり、答えが1つに定められない課題にCPSを適用することで効果を上げることができます。

条件2:コラボレーションしやすい学習環境をととのえること:自由に意見交換をしたり、アイデアを確かめたり、さまざまな活動にトライできる雰囲気,十分な時間,空間, 学習リソースを確保することです。また、十分に練られた課題設定や現実社会と関連性のあるプロジェクトシナリオそのものも、コラボレーションが成立するための舞台設定と言えるでしょう。

条件3:学習者の適性:自ら学び、進んで責任を引き受けようとする人であるにこしたことはないのですが、はじめから学習者がそうであるとは限りません。教授者の側からCPSにおける学習者の役割をよく説明し、学習者が学びの主導権を自分のものにできるように働きかけていくことが大切です。

条件4:教師の特性:細かいところまで管理するのではなく、ファシリテーターとして学習者自らの学びを促していくことが大切です。そしてそのためには、状況によって臨機応変に対応できる、柔軟さと寛容さが求められます。

<おわりに>
 以上がNelsonによるCPSの骨子です。学習者の協同的な関係を用いた問題解決学習を設計するためにおよそ考えられる要素はすべて網羅されているのではないでしょうか。しかもそれらは数多くの先行研究の中から設計論として活用可能な部分を抽出されたものであり、協同学習、問題解決学習の研究レビューとしても有用です。ただしその結果、本書の中ではこのID理論によって具体的にどのような実践が開発されたのかまでは示されていません。関連書籍に、もとになった協同学習、問題解決学習の代表的な書籍の中から翻訳されているものを挙げておきました。

 なお、本稿の筆者自身も、協同学習についてのIDモデルの開発に取り組んでいます。テレビ会議や電子掲示板システムを用いて遠隔の学校どうしで学習する「学校間交流学習」が対象です。授業実践における教師の手だてや学習効果ついての調査をもとに、「枠組みモデル」と「手順モデル」と2つのモデルを開発したところは、Nelsonの示し方が多いに参考になりました。詳しくは拙著をご覧下さい(稲垣忠,学校間交流学習をはじめよう,日本文教出版,2004)。現在はIDモデルが「使える」ものかどうか、学校現場の先生方に検証していただいているところです。

<関連書籍のご案内>
E. Aronson, ジグソー学級:生徒と教師の心を開く協同学習法の教え方と学び方, 松山安雄(訳), 原書房.1978
D. W. Johnson, E. J. Holubec, R.T. Johnson, 「学習の輪―アメリカの協同学習入門」,杉江修治,伊藤康児,石田裕久,伊藤篤 (訳),二瓶社,1998
Y. Sharan and S. Sharan,「協同」による総合学習の設計―グループ・プロジェクト入門,石田裕久,伊藤篤,杉江修治,伊藤康児 (翻訳),北大路書房,2001
D. R. Woods, PBL(Problem‐based Learning)―判断能力を高める主体的学習, 新道 幸恵 (訳). 医学書院,2001

(稲垣 忠 東北学院大学 http://www.ina-lab.net/ )


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