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[006-04]第2弾 精緻化理論(Elaboration Theory)

前回からご紹介している、通称GreenBook(みどり本)と呼ばれる”Instructional-design theories and models.”Volume2ですが、今回はこの中から第18章のC.M.Reigeluthによる「精緻化理論(Elaboration Theory):スコープと系列化の決定のためのガイダンス」について、この理論を題材に「精緻化理論に基づく入門情報教育教材の設計と開発」と題して書いた筆者の修士論文の内容と合わせてご紹介します。

精緻化理論とは、より効果的に学習目標を達成するために、内容を選択し、シーケンシング(系列化)することを助けることを目的とした理論です。精緻化という言葉ではイメージがつかみにくいかと思いますが、次第に細かく精密になるということ、つまり次第に複雑になるという意味です。この理論の特徴は、学習の内容やタスクを細かく砕いて小分けにするのではなく、現実的な内容や、そのタスクの領域を見極めることによって学習の内容を単純化し、単純・包括的なものから始まり、次第に複雑・詳細なものへと学習を進めていくというものです。これにより、有意義でモチベーションの高い学習が実現され、より効果的に学習目標が達成されると述べられています。

実際に精緻化理論を応用して系列化を行う際には、学習内容が次の3つのうちどのタイプかを見極めることによって、それぞれ系列化方略があります。まず、概念(What)の学習の場合、概念的精緻化シーケンスにより系列化します。概念的精緻化シーケンスは、概念間のある包括的な関係性に基づいた概念構造を分析し、より広義で包括的、一般的な概念を教えることから始まり、そしてより狭く、包括的ではなく、細かい概念へと系列化を行います。次に、理論(Why)の学習の場合、理論的精緻化シーケンスにより系列化します。理論的精緻化シーケンスは理論構造を分析することによってそれらの包括性/複雑さの関係を識別します。そして、より広義で包括的、一般的な理論を教えることから始まり、より狭義で詳細で明確な法則へと系列化します。最後に、ある特定のタスクについてどのように(How)行うのかを学習する場合、SCM(Simplifying Conditions Method)により系列化します。SCMは、最初にそのタスクを実行するために必要とされる基礎的な要素をすべて含んでいるタスクの、最も単純で典型的な例(要約)が学習者に与えられ、次第により複雑なケースへと進んでいきます。事例で挙げたWebページの作成は特定のタスクの学習ですのでSCMにより系列化されています。

ペンシルバニア州立大学の学生のWebページ(http://www.personal.psu.edu/users/y/x/yxx105/knowledge/f.htm#how)には、様々な精緻化理論を応用した事例があり、その1つにWeb作成ソフトを利用して複数ページのWebサイトを作成するという学習を精緻化した例があります。私が行った研究(http://www.et.soft.iwate-pu.ac.jp/~g231z005/master/)では、この事例を基に、まず事例と同じ学習内容の市販の教材(紙ベース)を用意し、事例に基づいてこの教材の系列を組み替えた精緻化理論に基づくものと、市販の教材の系列のまま(精緻化されていない)の2種類の教材を準備しました。そこで、2つの教材の間でモチベーションの維持や学習成果に差が見られるかどうかアンケートによる実験を行いました。その結果、精緻化理論に基づいて系列を組み替えた教材の方が初学者にはより適していることが示唆されました。

この学習には、①ソフトのインターフェイスの確認 ②Webページの作成 ③Webページの公開 と大きく3つのステップがあり、精緻化に基づいた系列では各ラーニングエピソード(章のような単位)では、①から③のステップを包括的にとらえ、単純なものから複雑なものへラーニングエピソードが進んで行きます。この事例では3つのラーニングエピソードから成り、エピソード1では、1ページのWebページを作成し、学内のサーバへアップロードして公開。エピソード2では、複数ページのWebを作成し、FTPソフトを利用して学内サーバへアップロードして公開。エピソード3では、フレームやフォームを利用したインタラクティブなWebページを作成し、FTPソフトを利用して学外サーバへアップロードして公開、という内容になっています。ステップ①から③の流れを初期段階から一通り経験することができ、次第に複雑な内容を学習するというスパイラルの形になっているのが特徴です。一方、市販の教材の系列は、ステップ①を単純なものから複雑なものまですべて学習したあとステップ②を同じく一通り学習し、最後にステップ③について同様に一通り学習する、という系列になっており、学習が最後まで到達しなければ公開までの流れを経験することができません。この2つの教材の内容を比較してわかるように、精緻化理論は学習の初期段階から現実的な学習を行うことができ、それがモチベーションの維持、効果的な学習目標の達成につながる理論であると言えます。

以上、大まかにご紹介しましたが、さらに詳しい内容は、鈴木研究室「輪読の輪」のページ(http://www.et.soft.iwate-pu.ac.jp/~core/)の「輪読の輪 第2弾 インストラクショナルデザイン 理論とモデル 2」の第18章の項目に図表などと合わせてまとめたものが載っておりますのでご覧下さい。

参考文献:
Reigeluth.C.M (1999). Elaboration Theory: Guidance for Scope and Sequence Decisions. In C.M. Reigeluth (Ed.), Instructional-Design Theories and Models Vol.II: A New Paradigm of Instructional Theory (pp425-453.;Chapter 18). Hillsdale,NJ:Lawrence Erlbaum Associates.

ペンシルバニア州立大学 事例URL
「Elaboration Theory」4. How is this theory used?
http://www.personal.psu.edu/users/y/x/yxx105/knowledge/f.htm#how

(岩手県立大学大学院: 小野 幸子)


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