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[012-03]ヒゲ講師のID活動日誌(11)~米国取材旅行をおえて:退屈なeラーニング、楽しいeラーニング(シャンク)~

ヒゲ講師は、2005年6月11日(土)の夕刻、12日間の米国取材旅行を終えて成田に帰国した。来年度から主任講師の一人として担当する放送大学大学院科目「人間情報科学とeラーニング(’06)」のために、IDの巨匠インタビューのチャンスをもらってのこと。驚くべき登場人物のリストは下記のとおり(インタビュー順)。

M.デビッド メリル:CDT(画面構成理論)の提唱者。「ID第一原理」を本連載でも紹介。
ドナルド カークパトリック:おなじみ評価の4レベルの提唱者。息子の方ではなく親父を取材。
C.M.ライゲルース:精緻化理論の提唱者。グリーンブックの編集者。3冊目の編集中とか。
J.M.ケラー:ARCS動機づけモデルの提唱者。今回は友人としてではなく巨匠として取材。
W.W.ウェイジャー:ICM(教材構造化技法)の提唱者。ヒゲ講師の博士論文審査主任教授。
R.A.リーサー:ID歴史学者(といえる事情通)。「IDTのトレンドと課題」の編者。
R.C.シャンク:ゴールベースシナリオ(GBS)理論の提唱者。AIからの転身組。

自分でも信じられません。巨匠たちに直接お会いして、インタビューしてきました。放送大学の番組ディレクターお二人とともに渡米して、ニューヨーク在住の取材クルー3名と合流して、巨匠たちの発言をばっちりカメラに収めてきました。カメラの威力か友人のネットワークか、何が功を奏したのか取材申込はすべて許諾され、目が回る日程で全米各地を飛び回りました。

来年度からの放送に備えて、これからインタビューの編集・翻訳ならびに番組の構成・スタジオ撮影をします。放送大学では、放送された番組は全国の大学で教材として使ってよろしい、という大盤振る舞いの著作権処理をしています。巨匠たちのインタビューをできるだけ長く番組に入れて、生の声を(英語ですが)聞いてもらうために吹き替えはせずに字幕スーパーを採用します。ご期待ください。
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●AI研究の巨匠シャンクが教育実践に「下野」した理由
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ロジャー・シャンクといえば、AI研究の第一人者として邦訳本が4冊もある著名人である。IDの世界ではアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)の企業内教育の抜本改革から1990年代に編み出したゴールベースシナリオ(GBS)理論の提唱者。2003年のASTDカンファレンス「TechKnowledge2003」の基調講演の内容は「eラーニング13のおとぎ話」として「eラーニングファンダメンタル」で紹介したとおりの、自他共に認める超急進派。最近では、「世界一豪華なビル」トランプ・タワーを五番街に建てた不動産王ドナルド・トランプが設立した「トランプ大学」のCLOに就任して話題の人となっている(http://www.trumpuniversity.com/company/TrumpUniversity_2005-05-23.pdf)。ディズニーで有名なフロリダ州オーランドから2時間半のドライブで、大西洋を臨むウォーターフロントに6ヶ月前に引っ越してきたという豪邸を訪ねた。

「トランプはいい意味でも悪い意味でも有名すぎるから、この先どうなるかは分からないよ。だけど、現存の大学を改革していくときに障壁となる慣習や抵抗勢力は、この大学には一切ない。自分の理論をフル活用してやりたいようにやって良い、という条件で引き受けた仕事。とても稀なチャンスだと思っている。大いに暴れてみるよ。」(録画テープに基づかない取材者の主観的印象による超訳)

1989年にAI研究で成果を上げた名門エール大学から突然、当時の大学院生をごっそり引き連れて、ノースウェスタン大学に転出した経緯を尋ねた。著名なAI研究者がなぜ企業内教育の研究に転身(下野?)したのか。

「場所はどこでも良かった。アンダーセンコンサルティング社が、ノースウェスタン大学に来てくれるならば研究資金を準備すると申し出てくれたので、そこへ行くことにした。この頃、とてもひどいことが起きていた。それは、自分の息子が学校に行くようになったことだ。学校の教育では、AI研究の常識が全く無視されていた。自分の仕事は教育の改善にあると思った。AIのプロトタイプをつくっているよりは、教育の現場に役立つコンピュータソフトウェアをつくることに意義があると自分の大学院生を説得して連れて行った。」(録画テープに基づかない取材者の主観的印象による超訳。転出の経緯は、シャンクの著作にも述べられている:例えば、Schank, R.C. (Ed.)(1998). Inside multi-media case based instruction. Mahwah:
Lawrence Erlbaum Associates. Associates. の序文)

「それは行動主義心理学者スキナーが教育へ転身したのと同じ理由でしたね」という応答は避けたが、そう思った。

IDには「人が如何に学ぶか」を説明する理論的な裏づけがあり、それに基づいて学習環境を構築するためのデザイン技法を提唱していく必要がある。シャンクの理論がなぜ魅力的かといえば、AI研究の蓄積に基づいて「学習科学」の研究領域を確立し、実際の教育現場で用いる教材に理論を実装することによって、理論を形成しつつ、実践を変えてきた実績があるからだ。スキナーだけでなく、IDの生みの親ガニェのスタンスにも底通する「歓迎すべき転身」として巨匠シャンクをIDの世界に歓迎したいと強く思った。

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●シャンクの退屈なeラーニング、楽しいeラーニング
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インタビューに臨むとき、下準備をすることがとても勉強になる。「インタビュー術」(永江朗著、講談社現代新書1627)などを読み返しつつ、取材相手の著作を読み漁って、インタビューの質問をひねり出す。「あなたの研究にとても興味があります。」というだけでは駄目で、その裏づけをさりげなく提示しなくては、紋切り型のせりふしか引き出すことができない。極度の緊張感があり、また成功したときの充実感は他に類をみない程である。

今回の連載を、シャンクの最新作からの引用で締めくくることにしよう。シャンクはeラーニングは退屈だ、このままだと先は長くないと警鐘を鳴らす。次の一文がヒゲ講師の目を捉えて離さなかった。

Can e-Learning be fun? It better be or it won’t be around long.
(eラーニングって楽しくなるの? そうしないとね、さもないと先は長くないよ)

eラーニングを退屈にするための、そして楽しくするためのチェックリストを訳した。参考にして、楽しいeラーニング(そしてラーニング全体)をデザインしましょう。

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eラーニングを退屈にするためには、
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□ 画面上で多量の文章を読ませよ
□ 会社の上層部による長いスピーチを挿入せよ
□ かわいいアニメーションを学習活動の導入とせよ
□ 多肢選択式の回答を用意して質問せよ
□ 回答が間違っていると告げよ
□ ゲームをやらせよ
□ ゲームで何点取ったかを告げよ
□ 現実的でないシミュレーションをつくれ
□ 受講者の人生に何の関係もないシミュレーションをつくれ
□ 何の感情も駆り立てないシナリオにせよ
□ 受講者にスキルを練習させることを忘れよ
□ 受講者が何も向上することがないようにせよ
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eラーニングを楽しく(FUN)させるためには、
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□ 文章ではなく視覚的な手段で状況を描写せよ
□ 受講者がミスを犯したときにジャストインタイムにエキスパートからのストーリーを用いよ
□ 受講者が没入できるようなストーリーの一部としてアニメーションを用いよ
□ 受講者に学習活動の選択肢を与えよ
□ まずい選択をした場合には、受講者にわかりやすい「まずい結末」に導け
□ 受講者が職務上に実行する事柄を練習させよ
□ 研修での成功を、実務での成功と同じに定義せよ
□ 受講者自身が遭遇するだろうと認識できるような職務に類似したシナリオだけを用いよ
□ シナリオは「ありえる」と思えるもので、失敗することは良くないと感じられるようにせよ
□ 研修の成果が職務上で実感できるように可視化せよ
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出典:Schank, R.C. (2005). Lessons in learning, e-learning, and training.
San Fransisco: Pfeiffer, p.222-223. (鈴木による試訳))

(ヒゲ講師 記す)


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