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[066-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(62) ~アドラー心理学ってID的じゃないですか?~

アドラー心理学ってID的じゃないですか、とある人に聞いてみた。「そうですよね、やっぱり」とは言われなかった。別の人に聞いた。「アドラーとIDに共通点があるとは思ってもみませんでした」と言われた。やっぱり違うのかなぁ。でも似ているところがあると思いませんか?

なぜ毎日を生きているのか? アドラー曰く「幸せになるため」。どうしたら幸せになるのか?
アドラー曰く「他の人を幸せにすること。そのための能力を身につけること」。実にシンプルで分かりやすい。人は幸せになるために、得意分野を伸ばし、他の人に役立つ人になれるように、日夜努力する。もちろん人は強くなくては生きていけないから、お金を稼ぐことも必要だし、競争に勝ち抜くことも必要。でも人は優しくなければ生きていく価値はない、とも言われている。何がゴールで何がそのための手段か、と考えれば、お金や勝利は、幸せという目的への手段。これって、例えば反転授業という一つの方法を行うことを目的化してはいけない、反転授業が方法であるとすれば、その方法を用いて何を達成したいのかを問え、というID的な発想と似ていないだろうか?

アドラー曰く、劣等感を持つのは当たり前(普通)のこと。持っていない人はいない。劣等感は明日の私から今日の私を引いたもの。「今よりも良くなろう」と思っているから劣等感を持つ。他者と自分を比べて劣等感を持つのは、他者に明日の私を投影するから。自分と比べても仕方がない人(例えばオリンピック選手)に対しては(すごいなぁとは思っても)劣等感を持つことはない。これってIDの出入口のギャップを感じるからやる気になる、という論理と同じじゃない?
事前テストをやって、ぎゃふんと思わせて、自分はまだまだ伸びしろがあると感じさせ、ギャップを意識させるという手法に底通しないだろうか。劣等感を持たなければ学びへの意欲を持つことは難しい。人は同じ出口に到達するために必要な時間が違うから、到達する意味がある出口かどうかを見極めさせることが大事。そういうことと同じじゃないのかなぁ。

アドラーは目的論。「すべての人間は、それぞれの目的に向かって進んでいく」「なりたい自分」があるから、今このような行動をとっている。過去のことは変えられないが、未来のことは自分の意志で変えられる。「最も重要なのは、『どこから』ではなく『どこへ』である」。なるほど、現状を認識することは出口への距離感を実感するために必要だけど、何故そんな場所に今いるの、という原因追及はしても仕方ない。これまでのことは言い訳せずに、現状からスタートして出口に至る道をデザインするというID的アプローチと似ているんじゃないか。

アドラーは柔らかい決定論。「私の人生は全部私が決めている」と考えるのが「個人の主体性」。私という個人が、私の心と身体を使って私自身の人生を動かしている。もちろん、生育歴、身体的な条件、環境的な条件、偶然による制約など、自分の思う通りにならないこともたくさんある。この条件を除けばすべての事柄について自分で決めることができると考えるのが柔らかい決定論。自分の人生は自分以外の何かによって決められているのではなく、自分で決められる部分が確実にある、ということ。なるほど、これって、所与の条件は変えられないけれどその範囲の中でよりよい選択肢をデザインしてゴールを達成するというIDの処方的アプローチ(最近ではデザイン的アプローチとも呼ぶ)と似ているんじゃないの?

なぜ今、アドラーかって? それは向後千春著『アドラー“実践”講義 幸せに生きる』(技術評論社、2015年刊)を読んで、鋭意執筆中の『学習設計マニュアル』の学習スタイル(このことは前回の連載で述べた)の「前座」としてライフスタイル診断が使えないだろうか、と思ったから。読んでるうちに、アドラーってID的じゃないの、と思うようになったので、読者諸兄の反応を知りたくて開陳してみました。

アドラー心理学は、上記の向後さんの本しか読んでない。上記のアドラーについての記述もすべてそこからの引用。『嫌われる勇気』から入った人はまた別の印象を持つかもしれないが、それはまだ私にはわからない。ベストセラーだしそのうち読んでみなければとは思うが、現時点で十分納得感が得られたとも感じている。

ちなみにライフスタイルは10歳までに決まるとのこと。容姿や身体的特徴で「ちびデブ」とかいじめられたり、美人だからってえこひいきされている周りの子どもを見て、駆けっこが得意な子は運動能力で見返してやろうとするし、それがだめならば頑張って勉強して目立とうとする。それもだめなら笑いをとってクラスの人気者になろうとする。そういう中で、それぞれのライフスタイルが決まるらしい。やさしさや共感性は、自分のライフスタイルとは異なる人が周りにいるということに気付くことからだ、という教えがとても参考になると思った次第。

『学習設計マニュアル』的には、アドラーがID的かどうかは、あまり問題ではない。でも気になった、共通点あるよね、と思ったというご報告でした。もしかすると『学習設計マニュアル』でアドラーを紹介したいと思ったのは、ID的だと思った深層心理(この用語はアドラー的ではないらしい)が働いたからだったかもしれません。

(ひげ講師記す)


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