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[024-02] 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(23) ~パネル登壇で実感した省察不足:バンコク~

2009年10月30日、ヒゲ講師は招待講演者として、バンコク市内にあるスリキット女王国立コンベンションセンターの壇上にいた。Worlddidac Asia2009という教育機器の展示会に併設されたAsia Education Leaders Forum最終日のパネル登壇だった。ある日突然舞い込んだ1通のメールでの招待に応じてのこと。VIP待遇を受けながらいろいろと探りを入れたが、なぜヒゲ講師が招待されたの? という謎は最後まで解けなかった。

7年ぶりのバンコクは相変わらずのひどい交通渋滞。排出ガスによる空気汚染は幾分か軽減されたようにも思ったが、秋を迎える日本から訪れると「むーっ」とした空気の夏に逆戻り。エアコンが効き過ぎの室内との往復が特にしんどい。

展示会では300を超える会社がブースを構え、多くの見物客で賑わっていた。主催団体の話では、およそ半分がテクノロジー絡みで、あとの半数は教育用玩具や実験機材などの実物系。近年の動きとしては、実物系の裏にデジタルが組み込まれたものが急激に増えているという。一角に7年前に取材した遠隔学習財団のパネル展示があった。衛星放送で授業を中継して地方の貧困層に奉仕するという国王による直轄プロジェクトが当時より規模をより大きくして健在であることがうれしかった。

展示会で目立ったのは英国・ドイツに加えて、中国と韓国からの出展。この4ケ国は国ごとにまとまって、国名の入った統一デザインで囲まれたコーナーをつくっていた。それに比べて日本からの出展はわずか数社。ハード系の現地法人に加え、教育用什器のメーカーと語学用教室内LANシステムに特化した展示が点々と置かれていた。「昔は日本のドラマがテレビによく流れていたけど、最近は韓流ドラマですね」と聞いたこととあわせて、日本のプレゼンスはこれでいいの? と感じた。まぁ時代の趨勢ですかね。

最終日のパネルは「E-Educationが教育の質・平等に与える影響とその反応」がテーマだった。ユネスコバンコクの取り組みについての基調講演に続き、英国での動向を紹介した主催者のイントロの後に、タイ、日本、シンガポールからの招待講演者が話題を提供した。ヒゲ講師はこのテーマに多少の違和感を持ちながら、「教授システム学専攻」の紹介を枕にして、2003年に日本がeラーニングレディネス世界ランキング23位になったショックと、それからもあまり進展を見せない日本のeラーニング動向の紹介などをした。これまでの発表をいくつかつなぎ合わせて急場しのぎの準備で臨んだだけに「あ、浮いたな」と感じたが、それは仕方なかった。「教育の質を考えるとき、同じやり方で単にe化するのではなく、e化を契機にやり方を根本から見直すべきだし、それは可能だ」というメッセージで行くことにした。

話題提供が終わった後で、いくつか質問がフロアから出た。その中に、タイの現状を考えると、「歩く前に走れというのか」という趣旨のものがあった。これはヒゲ講師の話題に対するものではなかったので、直接答える必要は感じなかったが、何かメッセージを伝える好機を逃がしたような気がした。たとえば、前回紹介したミャンマーでの児童中心型プロジェクトのことや、うちの専攻に南アフリカに隣接する国マラウイからの留学生が3人も来ていることが想起されたが、発言には至らなかった。これらを例にして何を伝えたかったのかがすぐにクリアにならなかったのがその原因だったと後で気づいた。自分がやっていることや見聞きしていることからどんなメッセージを出すべきかを普段から考えていない省察不足だな、と思った。

何を言うべきだったか。何を言うことができただろうか。

ミャンマーではICTではないが、児童中心型の授業のやり方を具体的な指導案として示した「教師用ガイド」を印刷・配布して、まずは「児童中心型の授業」をマニュアル通りに実施できるように研修を重ねている。また、世界中で注目されている日本流の「授業研究(Lesson Study)」のやり方を普及させて「教師用ガイド」を超えた独自の授業づくりの方法を体得させることに取り組んでいる。いわゆるICTのようなハードウェアが伴わない「ソフトテクノロジー」の普及を目指しているのがその特徴であると言えた。それは何らかの目に見える道具が持ち込まれる改革よりは難しいものだ。しかし、同じ普及のノウハウは応用できると感じている。こう言えたなぁ、残念!

マラウイからの留学生が取り組んでいるテーマの中には、高校の物理の授業の中にICTを取り入れるというものもあるが、教員養成を変革するというものもある。従来型の対面研修だけでは養成できる教員の数に限りがあり、必要数が充足できていない。有資格の教員をもっと多く養成するためにテクノロジーがどう活用できるかを探り、新しいタイプの教員研修のやり方を模索している。多くの学校の教室にはインターネットが来ているという状況にない国からどうして留学生が派遣されてくるのかと不思議に思っていたが、教員養成から始めるというのはなるほどと思った。教員養成の単なる量的な拡充だけでなく、そこで養成された教師が教壇に立っているうちに、教室にもICTが来る、と考えれば、間接的なICT利用教育の準備にもなることが期待できる。そう、こう言えば良かった。

この二つが言えれば、準備段階から感じていた「違和感」を少しは払拭して帰路につくことができたと思う。もっと言えば、最初からこの2つの事例を組み込んだ話題提供をしても良かった。日本は、貧困やデジタルデバイドというアジアが抱える問題を共有していないと思うだろうが、一方で国際貢献によって近隣諸国に奉仕する道を模索している。次のチャンスがあれば、このメッセージを事例とともに伝えるようにしよう。そういう思いを胸に、またひとつ勉強になったことを感謝してバンコクをあとにした。コップクン・クラップ。

(ヒゲ講師記す)


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