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[076-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(72) :下山・鈴木対談を終えて~アカデミック・トランスフォーメーションとミネルバ大学~

ヒゲ講師は、2018年11月15日御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターにいた。eラーニングアワード2018フォーラムで人財ラボの下山さんに誘われて対談に登壇するためであった。対談のタイトルは「ラーニング・トランスフォーメーション ~Reskilling & Upskilling for 2025 働き方・学び方が明らかに変わる『2025年』に向けて~」。経産省がDX(デジタルトランフォーメーション)の報告書を出したばかりということもあり、未来志向で人材育成者が何ができるか、何をすべきかを話し合った。結論は、Reskillingとしては研修体系の見直しが必要、Upskillingとしては学び方を学ぶという視点が必要、ということに落ち着いた(のかな)。

冒頭で紹介したのはアメリカで使われている大学入門教育のテキスト。そのタイトルが『アカデミック・トランフォーメーション』であり、高校生を大学生に、すなわち生徒を学生に変換するために書かれた教科書で、トランスフォーメーションとはさなぎが蝶に「変態する」ことを意味していると説明。知識は覚えるものという常識をくつがえし、分かっていないことを探究するのが学問であるという変換を迫る。これが大学入門教育の目指すところで、わが国でもそういう発想が求められている、と解説。最後に紹介した『学習設計マニュアル』への布石でもあった(どうつながるか、お分かりいただけますかね?)。

次に紹介したのは、ミネルバ大学。我が国への誘致に奔走した山本秀樹さんが近著『世界のエリートが今一番入りたい大学:ミネルバ大学』で詳細に紹介され、話題を呼んでいますね。そう言って、この書籍の表紙を投影したら、カシャカシャと写メの嵐。あれ、ご参集の皆様はご存じなかったのかもしれませんね。書籍の帯には「校舎がない:4年で世界の7都市をめぐる。教師は『講義』も『テスト』もしない。全寮制なのに、授業はすべてオンライン。ハーバードやスタンフォードを超える人材がなぜ、この『ありえない』大学に殺到するのか?」とある。読まずにはいられない魅力的な帯ですね。

2014年9月サンフランシスコにて開校したこの「ありえない」大学は、講義をしない。対面指導をしない。キャンパスがないので、学費が比較的安い(年間授業料は約145万円、寮費は約100万円)。受験料が無料で入学希望者が殺到し、合格率はわずか2.8%。キャンパスがないのに学期ごと世界7都市で全寮制(サンフランシスコ、ソウル、ハイデラバード、ベルリン、ブエノスアイレス、ロンドン、台北:我が国への誘致は残念ながら失敗)。学生は全寮制なのに教員は遠隔地から独自開発プラットフォーム「アクティブ・ラーニング・フォーラム」越しに学生18名との議論に参加。4つのコアスキル(Thinking Critically/Creatively、Communicating/Interact Effectively)を教える独自カリキュラムは、1年次全科目必修で学び方を学び、2年次に2学部まで選択して自分の軸をつくる。3・4年次でキャップストーン科目に取り組んで実社会への応用力を養うというもの。いやぁ、よくできていますね、と感心させられっぱなしでした、と解説。

実は、今から13年前の2006年に開設した熊本大学の大学院教授システム学専攻もミネルバ大学と似たような発想で作ったんですよ(もちろん、これが一番言いたかったこと)。教授陣は熊本在住、学生は全国に散らばっているというあたりは逆なのですが、講義はないし、定期試験もない。覚えることは一切ないが、実務への応用を目指している。修了生コンピテンシーを掲げ、全科目の課題をその達成に紐づけている。対面授業をオンライン化するのではなく、オンラインの特徴を生かしたeラーニングを設計。似てますよね? ミネルバ大学は学部だが大学院相当の教育をしている、という見方もあるので、ますます似ているように思えてくるのが不思議。だいたい対面型の教育があまり意識的にデザインされていないのに、それを単にeラーニング化しただけだと、まずい側面を再現することになる。同型性ではなく同価値を追求すれば、対面とオンラインでは異なる形に落ち着くのがむしろ自然なのです。対談ではそうは言わなかったが、振り返って改めてそう思うのでした。

(ヒゲ講師記す)

参考文献
Seller, D., Dochen, C. W., & Hodges, R. (2014). Academic transformation: The road to college success (3rd Ed.). Peason

山本秀樹(2018)『世界のエリートが今一番入りたい大学:ミネルバ大学』ダイヤモンド社

 


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