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[037-02] 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(32) ~季節外れのフロリダ訪問記2:TCCのラーニングコモンズ~

もう一つの訪問先タラハッシコミュニティカレッジ(TCC)は、フロリダ州の州都にある州立の短大である。2008年にそれまで学内に点在していた学習支援の組織を全学生対象のラーニングコモンズとしてまとめて一本化した。その結果、図書館司書との協力関係が構築され、教員との連携も密になり、オープンアクセスPCを中心に熱気にあふれた学習活動の場が提供できるようになったという。

TCCのラーニングコモンズは、学生数1万5千人規模の短大で、学期の最初の5週間で9000人が利用する施設となった。異なるニーズの学生に対して効率的に仕分けする「分化型支援実施モデル」を考案・採用し、訪問者のニーズに合わせた支援体制を確立した。つまり、自学のための資料がどこにあるかを教えるだけの支援、10分程度で学習の開始方法を指南するだけの支援、そして、さらに長時間の継続的支援が必要な者の3区分でまずは診断し、効率的に多くの学生を扱っている。利用者数の拡大に留まらず、利用学生に学業成績向上の実績を残すことにも成功している。発表者のもとに27人の専任教職員を抱え、ラーニングコモンズ関係者はその中で15人を占めるという。前回の米国訪問でそういう学会発表を聞いてから、是非一度実地見分してみたいと思っていた大学であった。

TCCのラーニングコモンズは、図書館と同じ建物の一部を改築してつくられていた。1階は数学系の自習室で、180人収容可能な広々とした部屋にPCがある机とPCがない丸机が配置されていた。統計・代数・テクノロジーなどに色分けされたコーナーに資料や教科書が置かれていた。学生はPC上の利用者管理システムで何をしに来たかを登録し、そのままPCを使ったり、チューターや支援専門家に相談をしたりしていた。自習室の周囲には、PCが置かれた教室やグループワークや個別チュータリングに使う小部屋があり、図書館の「静粛ゾーン」につながっていた。2階は語学系の自習室で1階と同じような配置であった。2階からつながる図書館には論文執筆の支援コーナーがあり、予約制で1回30分の個別指導が受けられる。その奥には図書館のレファレンスデスクがあり、両方を往復できるように配置されていた。

ラーニングコモンズは、「図書館機能、情報技術、その他のアカデミックサポートサービスを統合したもの」とマクマランによるOECD報告書(2008)では定義されている。次の9つの構成要素があるという。(1)コンピュータ・ワークステーション・クラスタ、(2)サービスデスク、(3)協同学習スペース、(4)プレゼンテーション支援センター、(5)FDのためのインストラクショナル・テクノロジーセンター、(6)電子教室、(7)ライティングセンターなどのアカデミックサポート部門、(8)ミーティング、セミナー、パーティ、プログラム、文化活動向けのスペース、(9)カフェおよびラウンジエリア。なるほど、TCCのラーニングコモンズには、全部揃っていた。河西(2010)によれば、ラーニングコモンズの特徴的概念の3本柱は、(1)図書館メディアを活用した自律的な学習の支援、(2)情報リテラシー教育とアカデミックスキルの育成、(3)協同的な学びの促進、であるという。なるほど、よく考えられている施設だなぁ、と思った。

授業以外の学習環境を構築するために学生から徴収する学費を使ってもいいんだ。
この考え方を持てたのがブレークスルーだったと副学長が語ってくれた。ラーニングコモンズの構想は2年間かけて担当部局が練りに練った案を大学当局がゴーサインを出したことで実現した。年間1億円規模の運転資金を投じているが、これはすべて学生を支援するものであり、多様なニーズを持つ学生の授業外の学習を支える重要な柱であると位置づけられている。学習支援専門スタッフを配置し、それを束ねるコーディネータを1階と2階に1人ずつ置き、関係部局との調整を図っている。一方、教員がラーニングコモンズに足を向けて、そこでのオフィスアワーやチュータリングを積極的に行うように支援する措置も抜かりない(教員のノルマの一部に充てるなど)。ラーニングコモンズで提供している支援を知り、また学生が単に怠け癖があるのではなくどこでつまずいているかに触れる機会を持つことで、教員の授業づくりにも良い影響を与えているという。これは立派なFD活動になっていると実感した。

(参考文献)
河西由美子(2010)「自律と協同の学びを支える図書館(Part 4)」山内祐平(編)「学びの空間が大学を変える」ボイックス、101-127

注:この日誌は、日本私立大学協会発行の「教育学術新聞」平成23年1月19日と28日号(第2428・2429号)に掲載された拙稿の一部を再掲したものです。

「教育学術新聞」のバックナンバーはWebサイトから閲覧可能です
(教育学術オンラインhttp://www.shidaikyo.or.jp/newspaper/online/)。

特集連載記事「インストラクショナルデザイン―学士課程教育構築の方法論になるか」もまだでしたら是非、読んでくださいね(ヒゲ講師は②③終を書きました)。
http://www.shidaikyo.or.jp/newspaper/online/rensai/instr_2.html

(ヒゲ講師記す)


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