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[064-03]【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第4章「インストラクションにおける状況依存原理」(チャールス・M・ライゲルース&アリソン・A・カー=シェルマン)

例えばあなたは、先週ガニェ先生の「9教授事象」を学んだ高校の社会の先生だとしましょう。あなたは早速来週の授業の冒頭で、「その1 学習者の注意を獲得する」を実践してみようと思いました。授業は次の2つです。

授業1.対象:高1G組 スポーツ推薦入学クラス(種目はさまざま。入学偏差値41)
テーマ:一向一揆
授業2.対象:高2A組 国立文系特進クラス(進路はさまざま。入学偏差値63)
テーマ:カノッサの屈辱

各々の「学習者の注意の獲得」に、果たしてどんなことをしますか?

「授業の導入で注意を獲得する」ことが大切なのはわかりました。それは普遍的原理です。では、1年G組の一向一揆の授業で、あるいは2年A組のカノッサの屈辱という「状況」で、何を話し、何を見せ、何を行えば望ましい「注意を獲得すること」ができるのでしょうか。
この、「対象×テーマ」など、各々の状況で(普遍的原理などを)どうすればよいかが、今回の状況依存原理です。

ここで、ある年のある学会の夜の鈴木先生の御言葉が思い起こされます。
「教育工学は工学なのだから、If–Then(こういう状況時、どうする)を語れ」、と。
私も酔っていたので多少記憶は曖昧なのですが、要するに「○○にはいろんな方法があることがわかりました。以上」というだけではイカンよ、というまさに状況依存問題解決的論旨です。

では、本書で状況依存原理は、そこをどう説明しているのでしょうか。
本章のビジョンは「より質の高いインストラクションを実現するための普遍的な原理の精密さを高める」とあり、当該原理の定義は、次のとおりでした。
(1)状況依存原理は、特定の状況にだけ適応できる。
普遍的とも言っていいものからとても限定的なものまでさまざまな原理がある。
(2)状況依存原理には、順序のきっちりと決まったものもあるが、
実際には、経験則的なものが多い。それは教授設計の複雑さに起因している。
困りました。
私には、これは定義というより特色に思えたのです。「醤油は特定の状況にだけ適応できる」というのは醤油の特色であり定義ではありません。

本章はさらに、「状況として重視すべきもの」として、「本質的に異なる教授方法が求められる2種類の状況性、(1)教授アプローチ(手段)に基づく状況性と(2)学習成果(目的)に基づく状況性」が挙げられていました。
ハッキリ言いましょう。何のことかわかりません。
こういう時には先行論文に限ります。そうです。あの論文です。

(状況依存原理として)「状況を記述する文法的枠組み(アプローチ・教授要素・系列化手法)を提案(中略)異なる価値観から導き出される多様なアプローチと,そこで選択的に用いられる教授要素,ならびに教育内容の系列手法としてまとめられている.これらを組み合わせて柔軟に設計することが今後の情報社会に求められているとしている.」
(鈴木克明・根本淳子)「教育設計についての3つの第1原理の誕生をめぐって」,JSISE学会誌:Vol.28(2):2011年4月
※確立した手法例(出典同 表3抜粋)
◎アプローチ:ケース中心型学習・認知的徒弟制・直接教授法・発見学習・ドリルと練習
◎教授要素:先行オーガナイザー・比喩・コーチング・共同作業・フィードバック
◎内容の系列手法:抽象-具体系列・演繹的系列・難易度系列・精緻化系列 (出典同)

やっとわかりました。
私はこの原理に、「偏差値41の筋肉少年少女への一向一揆のツカミ」そのものを求めていたのです。さすがのライゲリュース先生もそれはしてくれません。そしてそれはおそらく原理ではなく「解」でしょう。

この原理は、「状況に応じて精緻化したい時は」「既に明らかになっている文法的要素をヒューリスティック(柔軟)に組み合わせてみなさい」なのだと理解しました。

本章ではその要素の例として、大きく「教授アプローチ」(直接教授法、ディスカッション、経験、問題解決、シミュレーション 等)と、「学習成果」(の記憶、理解、応用 等)の先行理論を整理してくれています。

では、どんな状況の時、それらをどう組み合わせればよいのか。
それは私の博論をお待ちください。

(熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程 柴田 喜幸)

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