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[066-03]【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第6章「ディスカッションを用いたアプローチ」(ジョイス・テイラー・ギブソン)

ディスカッションアプローチ(ディスカッション授業)は、学生と教師による活発な学習を中心とする教育手法です(Christensen, Garvin, & Sweet, 1991)。昨今の「アクティブ・ラーニング」の議論と密接にかかわる内容だなと思います。グループワークをさせれば「アクティブ・ラーニング」なのか?生徒や学生が話し合いをすれば学んだことになるのか?教えることをやめて、学ぶことのできる授業をやりたいけれど、どうすればよいのか…。そんなギモンに大きな示唆をくれるのがこの第6章です。

ディスカッション授業には特徴があり、どのようなときにこの理論を用いるのかという前提条件があります。また、何が重要であるかについての見解、すなわち価値観があり、普遍的な原理を知っておくことで、よりよい授業の実践が可能となります。そして、実施にあたっては、学習者を教育することも必要ですし、「やってはいけないこと」もあります。年齢や経験、特別な支援を必要とする学習者に対して、どのようにインクルーシブなディスカッション授業を作るのかを示す「状況依存ガイドライン」も示されています。

まずは、ディスカッション授業の特徴です。
(1)学習指導における責任を分担すること
(2)学習者の声、経験、そして世界観を尊重すること
(3)学習指導の原動力として民主的参加を推奨すること
(4)批判的思考(Critical Thinking)と課題追究のスキルを高めること
(5)知識追究のために共に学ぶ学習者の共同体(Community of Learners)をつくること
この5つの特徴からわかることは、ディスカッション授業は「排他的ではなく、参加型」であることです。「自由な環境や主導権を共有するオープン性、リーダーシップ、クラス運営に関する責任を要求する」(Christensen et al., 1991)、「民主的な学習方法」「相互依存性と社会的活動、交流と探究、協力と協調、公式と非公式を内包(Brookfield & Preskill, 2005)という性質のものであって、「教師中心のアプローチから責任分担型アプローチへのパラダイムシフト、つまり「教える」、から「学ぶ」への転換を示しているのです。

つぎに、前提条件(どのようなときにこの理論を用いるか)です。ディスカッション授業は、すべての学習者に対して用いることができます。また、特別な施設は不要です。一般教室でも実施ができます。
そして、ディスカッション授業において何が重要であるかについて、つまり価値観ですが、
(1)個々人が自分自身の学びに参加すべきであると信じること
(2)コンセプトや問題に対する異なる味方を尊重すること
(3)協調作業と民主的な学習プロセスを促進すること
(4)質問や、批判的思考、問題解決能力を強調すること
(5)学習者の共同体を形成すること
(6)学ぶことは生活経験(life experience)と切り離すことができないものだと認めること

の6つを大事にしていく姿勢が必要です。トピックを深く追究していくこと、アイデアの交流、様々な視点を持つ人との交流重視、共同体の中で分析や批判的思考のスキルアップが必要な場合にディスカッション授業は大きなインパクトを持つのです。

ディスカッション授業の中に生きている原理(メリルの第一原理 等)については、本文を読んでいただくとして、6章の中で一番興味深かった点3つを挙げてレビューを締めくくることにします。

1つ目は「学習者を教育する」ことです。ディスカッション授業は、教師だけが頑張って工夫すれば実現するものではなく、学生だけにやらせるものでもなく、「教師と学習者が一緒に作るもの」です。例示によって参加者の理解を促進することは重要です。また、シラバスなどに基づき、明確な期待、つまり習内容や成績評価、参加の仕方、教師と学習者の役割の定義づけを示し、どこまで到達してほしいのか、どのように行動してほしいのかを示す必要があります。また、練習用のセッションで慣れることや、困難さをあらかじめ調べ、立ち向かう方法を見込んでおくことが肝要です。

2つ目は、「やってはいけない」リストです。
(1)講義をしちゃダメ! - ディスカッションのプロセスを貫くこと。
(2)あいまいにしちゃダメ! - 具体的に質問し、明確な方向性を示すこと。
(3)沈黙を恐れちゃダメ! - 慌てて間を埋めたりせず、沈黙の時間をそのままにすること。
(4)沈黙を誤解しちゃダメ! - 不安、退屈、離脱が沈黙の理由とは限りません。人は、考えをまとめたり、どう対応するのかを決めるために十分な時間を必要とすることもあります。

3つ目は、「状況依存ガイドライン」です。
学習者の特性や環境等の条件によって、ディスカッション授業のありようを変える必要についても示されています。学習者が幼い場合や特別支援が必要な学習者、言語を使いこなせないなど、年齢や学習経験によって、ディスカッションにおける責任分担の度合いや共同の度合いを調整することが求められます。また、遠隔またはオンライン会議では対話の手段がテクノロジーに依存しているため、原理を修正する必要も出てきます。そして、教師への不信感や学習に対する努力の欠如など、学習者の抵抗にどのように対処するのか、頭ではわかっていても、いざその場に直面した時にどうするべきか、考えさせられます。

最後に感想ですが、まさに今の日本の教育現場での悩みや課題に応える章だと感じました。行き当たりばったりや思いつきではなく、ディスカッション授業という学習の目標を明らかにし、学習者の特性や抵抗なども織り込んだ上で設計しておく、そして、突発的な出来事に対しても、あらかじめ想定しておき、適切に対処するという、準備しておくことの大切さを改めて感じた章でした。教師と学生が一緒に作っていく授業をどのように作っていくのか、インストラクショナルデザイナーにできることがたくさんあるように思いました。

(熊本大学大学院社会文化科学研究科 教授システム学専攻 博士後期課程 野田 啓子)

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