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[067-03]【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第7章「経験を用いたアプローチ」(リー・リンゼイ&ナンシー・バーガー)

アクティブラーニング、PBL、サービス・ラーニング、インターンシップ、企業における人材開発等々、経験・実践を重視する学習方法は多々ありますが、単に何かを「経験」すれば良いというわけではないようです。デューイ(Dewey)によれば、すべての学習は本質的に経験からの学習ですが、この章で取り扱う「経験的教授」とは学習者中心のものを指し、学習者は受け身ではなく、どのような経験をするかを能動的に協議する交渉者(negotiator)です。また、「真正(authentic)」な経験、学習者が「自己主導(self-direction)」的に意思決定を行うこと、経験から学ぶためのフィードバックが重視されます。
経験学習理論といえば、コルブ(Kolb)の経験学習モデルが有名です。
具体的経験 → 省察的観察 → 抽象的概念化 → 積極的実践
という循環的学習モデルです。しかしこのモデルに対しては、必ずしも順番に学習が進むわけではない、いくつかの段階が同時に起こることもある、経験から何も学ばない人もいる(経験から学ぶには認知的能力が必要)といった批判があります。また、経験を学習の基盤とすること自体に対して、すべての経験が成長につながるわけではないという反論もあります。本章では、これらの批判への解決策として社会的構成主義のアプローチが提案され、「経験の枠組みづくり」「経験の活性化」「経験の省察」というメリルの第一原理に似た3段階で、経験的教授の普遍的原理が説明されています。
(1)経験の枠組みづくり
枠組みづくりは、何のためにその経験をするのかを明らかにする教授目標の定義から始まります。たとえばインタビュー活動をする場合、調査における資料へのアクセス方法を学ぶ課題なのか、インタビュースキルの練習という目的で行うのかによって、経験の位置づけが異なってきます。次に、教授目標に対応する形で、評価基準を伝えます。そして、参加者の関係性や教室外の環境など、経験が行われる社会構造を定義し、参加者に期待する行動を明確にします。
(2)経験の活性化
枠組みができたならば、次はそれを活性化します。この段階で必要なこととして、真正な経験であること、学習者の意思決定が真正な成果に結びつくように経験を構成すること、ある程度問題指向であること、そして学習者がチャレンジしたいと思う最適な難易度であることが挙げられています。
(3)経験の省察
学習者が経験から意味を見出して深い省察を行うように、教師はファシリテータの役割を果たします。また、学習者が経験を共有し批判的省察を行うためのコミュニティを構築します。そして、省察のプロセスを引き起こすように「何が起こったか?」「なぜそれが起こったか?」「何を私は学んだのか?」「この知識を将来の経験にどのように適用できるだろうか?」という問いを学習者に投げかけます。
詳細な教授設計については、状況に応じた方法(状況依存原理)が多数挙げられており、既に何らかの経験学習を実施して改善を考えている方の参考になりそうです。たとえば、経験の枠組みづくりにおいては、遠隔コミュニティ形成の方法が紹介されています。また、先行経験の活性化の手法としては、ディスカッション/ストーリーテリングによるナラティブ・アプローチ/デジタルストーリーが、省察の手段としては日誌/ポートフォリオが挙げられています。
すべての学習は何らかの経験からの学習ですが、本章では経験の解釈の共有と経験の省察を通じて最も効果的に学習が起こるとされています。私自身も地域での活動、学外実習などの実践を通じて、単に経験をすれば良いというものではなく、経験した後にどう振り返るかが肝心だと常々感じていましたが、社会的構成主義アプローチによる経験学習を実現するにはデザイン・準備が大変でなかなか手をつけられずにいました。本章では、インストラクションにおいて学習を促進するためにどのように「経験」を用いるべきか、処方的モデルが提示されています。経験学習を始めようと考えている方、あるいは単に「やらせてみる」経験学習を脱却したい方は、ぜひ本章を活用してみてください!
(熊本大学大学院教授システム学専攻 博士後期課程 桑原千幸)


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