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[072-03]【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第12章「情意的な発達を促進する:感情的知性」(バーバラ・A・ビチェルマイヤー ほか)

第3部では、インストラクションの4つの異なる成果についての理論を扱っています。この4つの異なる成果のうち、第12章では、「感情的な発達」について扱っています。

ここで扱う「感情」とは、ブルームの3つの学習領域のうちの情意領域の基本要素のひとつとして位置づけられています。感情的知能(emotional intelligence)は、それが発達することによって、公正さ、平等性等の社会制度の維持に貢献でき、麻薬や暴力などの社会問題に対応できるなど、社会の中でよりよく生きていくことにつながるという点で、理知的知性(intellectual  intelligence)よりも、より重要であるとしています。

感情学習は、認知学習を促進させるためにも重要であるとされています。その理由として、感情欠落は合理性を阻害するため、合理的思考を習得するためにも、感情知能の発達が不可欠だというわけです。つまり、これまでの「感情VS認知」という二元論から感情&認知が相互に作用し統合されることがよりよい学びにつながるのだという主張だと理解できます。

ここでいう感情的知能の具体としては、自分の感情状態の理解・表示・制御、さらに他人の感情状態の理解・制御等を指しています。そして、このような感情的知能の発達のための5つの普遍的教授原理として、「物語を使うこと(課題中心の原理)」「感情表現の言語を教えること(活性化の原理)」「感情的知能のスキルのモデルを示すこと(例示の原理)」「感情を扱う時間を確保すること(応用の原理)」「能動的で統合的な経験を与えること(統合の原理)」が示されています。

ただし、これらはあくまで理想論であり、感情的知能発達のためには、個々のばらつきや状況に応じる注意深さが必要だとして、普遍原理と併せて「感情的知能発達のための状況依存原理」の視点を持つことが重要であるとしています。状況依存を理解する上では、感情的発達に影響を与える「内的要因」と「外的要因」があります。内的要因には、「感情の強さに性格が影響すること」「脳の成熟が感情的経験を蓄積する能力に影響すること」の2つが重要なポイントとして挙げられています。また、外的要因については、親が肯定的か否定的か等、家庭内の状況などに影響されるため、教師ができることには限界があることを理解した上で、対応することの大切さが述べられています。

以上のような全体を通して、個人的に印象的だったのは、やはりなのは「感情VS認知」のようにばらばらに捉えるのではなく、「感情&認知の統合」という点、つまり、よりよい認知的な学びを促進させるために、学習者の感情に焦点を当てていくことが重要だという点です。これを理解すれば、正解にたどり着けない学習者に罵声を浴びせたりする教師がいなくなり、学習者が楽しくおもしろく学ぶために努力する教師が増えることを願うばかりです。

(熊本大学大学院教授システム学専攻 博士後期課程 菊内由貴)


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